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無明のささやき
第十四章
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まさか今になって殺されるとは思いもしなかった。」
香織の顔は固まったままだ。次の瞬間、はっとして、もじもじとしている。そして消え入るような声で言った。
「何と言って、お悔やみ申し上げればよいのか。何て・・・」
「ですから、どうしても香織さんの話が聞きたいのです。」
「分かりました。静かな所で話しましょう。」
香織は先に立って歩き出した。
 5分も歩いただろうか。その間、二人とも無言だった。ボディーガードが二人の後に続く。南の女房は、小料理屋の前で立ち止まり、飯島に一瞥を与え、暖簾をくぐった。ボディーガードは店の入り口で待機した。

 店はそれほど広くない。カウンターと四つのテーブル、奥にこじんまりとした座敷が二つあるだけである。香織は迷うことなく、座敷に向かった。店主と思われる老人が、一礼して迎えた。
 二人は真正面で向いあうことになった。少し間違えればどんぐり眼になりそうな大きな眼が愛くるしい。西野会長が40歳の時の子ということになる。よほど可愛がられて育ったのだろう、人を疑うことのない育ちの良さが表情に表れている。
 飯島は、ふとあの扇情的なシーンが思い出し下半身が疼くのを感じた。しかし、和子のことを思い出し、改めて神妙な顔を作った。香織も神妙な表情を浮かべながら口を開いた。
「結婚式でお二人を拝見しただけなのに、何故か、その時の、飯島さんも、奥さんも、よく覚えています。お幸せそうな、お二人が、未だに心に焼き付いております。」
 飯島はあの結婚式のシーンを思いだし涙ぐみそうになった。結婚前、章子との嵐のような恋愛が終焉を迎え、和子しかいないことに気付いた。章子との浮気はばれていた。営業で何度も使った土下座をくり返し、飯島はようやく結婚式に漕ぎ着けたのだ。
 その和子が誰かに殺された。和子の無念の思いが飯島の心の中で渦巻いていた。ようやく子供を授かったのだ。その和子の悔しさを思うと胸が張り裂けそうになる。目をしばたかせ、涙を絞った。飯島が静かにこれまでの出来事を話し始めた。
 和子の妊娠、離婚、そして、思わぬ悲劇に触れた途端、深い溜息がついて出た。飯島は言葉を飲み込み、押し黙った。脳裏に和子の屈託のない笑顔が浮かび、それが一瞬にして涙顔に変わる。飯島が漸く言葉を発した。
「その子供もろとも命を奪われました。何としても、彼女と子供のために真実が知りたい。さきほども言いましたが、未遂に終わったが、和子もホテルで襲われた。貴方と同じようにね。」
香織は、ぴくりと体を動かしたが、うつむいたまま飯島の話を待った。
「女房をホテルで襲った犯人は二人だが、佐久間は加わっていない。しかし、警察の調べでは、一人は50歳前後、身長175センチ、所謂スポーツマンタイプでがっしりとした体格。もう一人は、年齢は少し上で、身長はそう大きくはない。そう
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