第十三章
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ない。」
石原は涙を拭い、飯島を見つめた。そして言った。
「飯島さん、僕は、兎に角、頭が混乱している。どう考えたらいいか分からない。僕の現実はあまりにも酷過ぎる、普通じゃない。飯島さん、和子だけじゃない。僕は子供まで同時に失ったんだ。」
めそめそと泣き崩れる石原に、飯島は慰める言葉さえ失っていた。
翌日、飯島は立川に向かった。背中に拳銃を差している。佐久間が本当のことを喋らなければ、それで脅すつもりだった。
実を言えば、佐久間が狂っているとは言え、和子を殺す動機が思い当たらなかった。石原の言う通り、唯一の証人を消すという目的は、佐久間にとって大きな意味を持たない。佐久間の目的は何なのかそれをはっきりさせたかった。
病院の駐車場は離れた所に位置しており、車を降りて少し街なかを歩かなければならなかった。細い路地を抜け、広い道路に出た。そのはす向いに病院の入り口が見える。ぐっと腹に力を込め、病院に近づいてった。
自動ドアを通りぬけ、受け付けでルームナンバーを確認し、病室へと急いだ。306号室が佐久間の部屋である。ノックをし、反応を待たずにドアを強く押し開けた。そこは個室だった。新聞を広げる男がそこにいた。
佐久間が新聞から顔を出し、にやりとして飯島を見た。そして、野太い声を響かせた。
「良く来た、後輩。愛すべき後輩が見舞いに来てくれたよ、姉さん。」
ドアの陰になっていた白髪の女が飯島を振りかえって見ていた。佐久間に良く似ている。
「飯島、そんな怖い顔するな、それから姉さん、駅前の煙草屋でハイライトマイルド買って来て下さい。」
女は無言のままバッグをテーブルから取り上げ、部屋を出て行った。どこか暗い印象を引きずった女である。
飯島は、ベッドの横の椅子に腰掛けた。佐久間は笑顔を崩さず、無言の飯島に話すよう催促しているようだ。飯島が重い口を開いた。
「章子と関係を持ったのは、佐久間さんと駅前で飲んだ後だ。センターへ異動になって、やけっぱちになっていた。つまり、佐久間さんが離婚した後だということだ。」
佐久間は、飯島と章子が肉体関係を持った事実を掴んだ。そして、飯島が長年にわたり章子と浮気をしていたと勝手に思い込んだ。だからこそ、佐久間は態度を豹変させた。こう考えるのが筋だろう。
飯島は佐久間の顔の変化を窺った。その笑顔から感情が抜けてゆく。佐久間の薄い唇が僅かに開かれた。
「お前は役者だよ、まったく。俺は騙され続けた。結局、愛子はお前の供だった。これは誰も否定出来ない。もう、いかげん惚けるのは止めろ。」
「おい、何を言っているんだ。この前も言っただろう、俺は種無しだ。何で愛子ちゃんの親になれるんだ。」
「愛子ちゃんか、成る程ね。おっと、そうそう、君の元奥さんには気の毒なことをしたねえ。飯島君があくまでも嘘をつき通し、
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