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無明のささやき
第十二章
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のターゲットは飯島である。どんな手を使ってくるか分からない。その上、ヤクザが加われば、命がいくつあっても足りない。しかし、そんな追い込まれた状況こそ、飯島を興奮させているのだ。飯島の闘争本能が深い眠りから目覚めつつあった。

 翌日の朝、斎藤から緊急の呼び出しがあった。支離滅裂でドモリまくる斎藤に苦笑いして電話を切った。飯島は八王子から車を飛ばして、10時過ぎにセンターに到着した。事務所の横の駐車場には黒塗りのベンツが置かれている。
 車をゆっくりとベンツの隣に横付けし、所長室を見ると、スキンヘッドの男が窓から飯島を窺っている。どうやら、呉工業の社長の息子、向田敦が動き出したようだ。会長の差し金に違いない。
 西野会長は佐久間の居所を探すため、呉工業の向田社長を通じて裏の世界の協力を仰いだ。向田社長の息子、敦が所属するのは八王子を根城とする博徒の飯田組である。斎藤の切羽詰った声がそのことを物語っていた。
 飯島は車を下り、事務所に向かって歩きだした。何か良い策はないかと思案したが二日酔いで頭は回らない。このまま倉庫の方に行ってしまえば奴等に会わずに済むが、隠れているのはかったるい。まあ、何とかなると高を括りドアのノブを回した。
 事務所には、太っちょのスキンヘッドが窓を背に立っていた。わざとらしく凶悪そうな目つきをして睨んでいる。背はあまり高くない。背広が窮屈そうだ。その背広の下には恐らくバーベルで鍛え上げた肉体が収まっているのだろう。
 その窓の右隣に飯島の机がある。その机に脚を投げ出し、両腕を組んで、男が笑みを浮かべながら飯島を見ている。細面の優男でどう見てもヤクザには見えない。高級そうな腕時計が重そうに細い腕から垂れ下がっている。
 ふと部屋の隅を見ると、斎藤がうな垂れて椅子に腰掛けていた。鼻にはティッシュが詰めこまれ、その先に血が滲んでいる。にやにやしながら、机に脚を投げ出している男が口を開いた。
「その男が、飯島さん、あんただと思ったよ。こんなふうに机に脚を投げ出してよ、ふんぞり返っていたもんだから。」
飯島も笑いながら答えた。
「ああ、そいつは次期センター長だ。決して行き過ぎた真似をしていたわけではない。一月後には間違い無くそんな風に、そこに腰掛けているだろう。」
男は指先を振って斎藤に出てゆくように指示した。スキンヘッドが動いて、斎藤を追い出しにかかる。「近くにいるんじゃねえ。見つけたらぶっ殺すぞ。」という怒鳴り声とそれに続くドタバタという重そうな靴音が聞こえた。
 男は机に投げ出していた脚を下ろし、飯島と真正面に向き直った。そしてドスの効いた声を響かせた。
「飯島さんよ、何しに来たか、分かっているんだろう。俺は、暴力沙汰は好きじゃねえ。だけど、飯島さんよ。後ろに控えたその男は何をするか分からねえ。人を殺すことなど屁
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