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無明のささやき
第十章
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ぞんざいな口のきき方に、飯島はかちんときたが今は下手に出るしかない。
「どうも、その後、佐久間の件はどうなったかと思いまして。」
「飯島さん、佐久間は白だよ。ホテルにチェクインした二人の男は、佐久間とは似ても似つかない男だった。ホテルのフロントがそう証言している。奥さんを襲ったことを佐久間が認めたと言っていたけど、裏が取れない。例えば、売り言葉に買い言葉ってこともあるだろう。」
写真のことが脳裏を駆け巡った。言えば花田も納得するだろうが、南との約束もあり、まして奥さんのことを思うと気の毒な気がする。
「花田さん、今回の石倉の件ですけど、あれは自殺ではありませんよ。あの男が自殺するなんて考えられません。センターの誰もがそう答えたはずです。そうじゃありませんか。」
「ああ、誰もがそう言っていたようだ。でもね、自殺っていうのは心の病だ。前にも自殺した人がいたじゃないですか、確か坂本さんとか言いましたよね。心の病は誰にも分からない。」
「ええ、坂本さんは確かに自殺しました。あれは、間違い無く覚悟の自殺です。でも石倉の場合は自殺する理由なんて全くないですから。」
「それはどうかな。企画部長からセンターのリストラ要員に降格されたんでしょう。相当ショックだったんじゃないですか。」
「でも、石倉の場合、あくまでも一時的な異動で、元に戻る可能性が強かった。いや、間違い無く戻る予定だったんです。」
「ああ、あんたともう一人、石倉の細君もそう言っていたらしいが、いいですか、飯島さん。担当刑事が南常務にそのことを確かめているんです。南常務はそういう風評を一切否定している。つまり、戻すつもりはなかったと、本人がそう言ったそうです。」
「そんな馬鹿な、あいつは、」
と言ってから、言葉を濁した。南は脅迫の事実が表にでることを警戒しているのだ。花田が言った。
「この事件の担当刑事もあんたのことを、ちょっとナーバスだと言っていた。いいですか、殺されると思えば誰でも抵抗する。そして何処かにその痕跡が残るんだ。しかし、奴の体には擦過傷も圧迫痕も爪の間にも何も残されていない。きれいなもんだ。誰かに殺されたなんて可能性は全く無いんだ。」
三日前に飯島を尋問した稲葉刑事のちょび髭面を思い出した。飯島は稲葉に、同じことを主張したのだ。花田はさらに畳み掛けた。
「いいかい、飯島さん。確かに奥さんの襲撃事件と石倉の自殺は、時期的にもまた人的関係が近いってことも確かに言える。あんたは両方とも佐久間がやったと言う。でも、今回の事件でも、佐久間にはアリバイがある。」
これを聞いて、飯島は押し黙った。花田は哀れむような声で言った。
「それに、石原さんは弁護士だ。怪しい会社の顧問弁護士も引き受けていた。だからヤクザと全く関係ないわけじゃない。奥さんの事件は、その線の可能性の方が濃い。」
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