暁 〜小説投稿サイト〜
自殺が罪になった日
自殺が罪になった日
[35/48]

[1] [9] 最後 最初
ちにサインしてもらってください」
「はい」
「じゃあ。どっちかみずもとって書いてねもとは木に横線一本だからね」
 水本は刑務所に向かって走っていった。
「あいつ。馬鹿にしすぎだよね」
「そうだね」
 彼女と笹川はお互い向かい合った。
 その時そのドライバーは彼女の顔を凝視していた。
「あのう。北原先生?」
「えっ」
 彼女は目線を笹川から そのドライバーに変えた。
「えっ、はないでしょ。時男だよ」
「時男君?」
「もう。何で憶えてないの?」
「ごめん」
「私、お風呂行ってく る」
 笹川は彼女に気を使ったのか気まずい雰囲気から逃げたかったのかわからないが刑務所に向かって走っていった。
「俺の組の副担任だったんだから普通憶えてるだろ?」
「ほんと、ごめん」
 澤野は彼女が教師一年目に副担任をした六年一組の生徒だったが彼女は澤野のことを思い出せなかった。
「ねえ。澤野君。ここに入ってる事は内密にしてね」
 澤野のことを憶えてない彼女は思い出話ができないので自己防衛に走った。
「言わないよ。会社から、受刑者さんに知り合いがいたとしても絶対に他言するなっていわれてるから」
「受刑者さんか。澤野君。私の事軽蔑してるでしょ?」
「してないよ。先生。なんかあのころと感じがちがうよね?」
「いろいろあったのよ」
「それはそうだけど。あの時と 別人みたいだよ」
「確かに別人だね」
「ねえ。先生。その傷」
 彼女の左手首のリストカットの傷に澤野は気付いた。
 普段リストバンドで隠してるその傷は厩舎作業でそのリストバンドが下にずれてしまい傷が見えた。
「見ないでよ」
彼女はずれたリストバンドを直した。
「ごめん」
「あっ。澤野君って。甲斐堀さんのお母さんの事で私に怒られた子だよね」
「そうだよ」

 (回想)
 七年前の駒田小学校六年一組の教室内。
 放課後、教室の前扉の付近で澤野に彼女が説教を始める。
「ねえ。甲斐堀さんのお母さんの手話を馬鹿にして怒られるの何回目?」
「わからん」
「わからんって。悪い事してる意識なし?」
「そうだね。悪い事じゃなくて江頭風手話をやるとみんな笑うんだよ。みんなの笑顔のためにやってるんだ。それなのに。怒るなんていみわかんねえよ」
「そうか。じゃあ。自分の両方の人差し指を両耳に突っ込んで」
「なんで」
「いいから」
 わけもわからず、彼女にせかされ澤野は言われた通りにした。
「ねえ。どうよ?」
「どうよって。あんまりきこえないよ」
「はずして。聴覚障害の人はこれよりもっと聞こえないんだよ」
「そうなの。あー。耳って臭い。先生俺わかったよ。耳の中ってうんこに近い臭いすんだな。だから耳糞か」
 澤野はその指の先端のにおいをかいだ。
「おい。時男君
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ