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剣の丘に花は咲く 
第九章 双月の舞踏会
第二話 桃りんご狩り
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って?」

 震える声で問いかけると、ティファニアは顔を覆った手の指の隙間から乾いた笑みをルイズに向けた。

「……その時の食料が尽きかけた理由なんだけど……何時も食料を持ってきてくれる商人さんが利用する道にオーク鬼が出るようになったからなの。それをたまたまこの村に立ち寄った旅人から聞いたアルトが『オーク鬼とは何ですか?』って聞いたきたのよ。……わたし……特に考えもせず『豚を二足歩行させた感じよ』って言ったの……そしたらアルト……あっと言う間に荷台を引きながら村を飛び出していってね……その時は商人が来ないことを知って、森の中に食料を獲りに行ったんだと思ったんだけど……」
「ど、どうしたのよ?」
「……まさか」

 両手で顔を覆ったティファニアに浮かぶ乾いた笑みが、その時のことを思い出したのかピタリと凍りついたように固まった。同じく表情を固まらせたルイズが続きを促すと、ルイズの背後で話しを聞いていた士郎は、何となく続きを予想出来たのか頭痛を堪えるかのように頭に手を当て天を仰いだ。

「日が落ちる頃にアルトは帰ってきたわ……ずるずると……巨大な物体を高く積み上げた荷台を引きながら」
「巨大な物体? ……その荷台には何が乗っていたの?」

 ゴクリとルイズの喉が鳴る。
 もしかしたらという考えと、いやいやまさかと言う思いがせめぎ合うルイズの全身から嫌な汗が吹き出た。

「荷台に乗っていたのは……十体のオーク鬼だったわ。あの華奢な身体でオーク鬼を十体載せた荷台を引いて戻ってきたアルトが、わたしに向かって言うのよ。満面の笑顔で―――『今日は焼肉ですね』って」
「……はは……」

 その時の恐怖を思い出したのか、ガタガタと震える身体を抱きしめながら、ティファニアは涙で滲む目で強ばった顔の口の端から空気が抜けるような笑いをするルイズを見る。

「断れる訳ないですよ。でも、流石にそんなものを子供たちに食べさせる事なんか出来ないから。食べたのはアルトだけだっただけど……」
「まさかあれを食べたなんて……信じられない」
「流石はセイバー……と言っていいのやら……」

 確かに見た目は豚を二足歩行させたようにも見えなくもないが、だからといって、食べる気が起きる気がするかどうかと問われれば、誰もが間髪入れず『無理』だと言うだろう。
 過去色々とゲテモノを食したことがある(強制的に)士郎であっても、流石に食べる気にはなれない。
 あまりのことに頭を抱えていると、サラサラと絹糸が揺れるような音が士郎の耳に入る。音に誘われるように士郎が顔を上げると、そこには恐怖に顔を強ばらせたティファニアが首を横に降っていた。

「……でも、一番恐ろしかったのは、一体約百四十リーブルはあるオーク鬼が十体いても……一ヶ月ももたなかったことでした」

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