暁 〜小説投稿サイト〜
無明のささやき
第九章
[8/8]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
、この日本じゃリストラは最後の最後の手段なんだよ。えー、分かるか。聞いてるのか、この野郎。」
飯島は両手で倒れた石坂の襟首をつかみ、立ち上がらせた。襟首の拳に力を入れ引き寄せながら叫んだ。
「分かっているのか。そんな情けない経営者のお先棒を担ぎやがって、皆を裏切りやがって、このゲス野郎が。もう少し皆に済まなそうな顔をしてるのなら、まだ許せるが、いつだってにやついていやがった。」
石倉の顔は恐怖に引きつっている。ぶるぶる震えながらその目は赤く染まっていった。涙だ。飯島が怒鳴った。
「何震えていやがる、それでも応援団出身か。」
その時、飯島は肩をぽんと叩かれた。振り向くと、佐藤が顔を紅潮させ頷いている。そして言った。
「もう、そのへんでいいだろう。そいつだって犠牲者だ。」
 飯島は急激に興奮が冷めてゆくのを感じた。佐藤の聖人君主然とした顔に違和感をおぼえたのだ。その顔を見つめながら、石倉の襟首から手を離し、犬でも追い払うように手先を振った。石倉は逃げるようにその場から立ち去った。そして、遠巻きに事態を見守っていた負け犬達の嘲笑と罵声がいつまでも続いた。

 石倉は、組織という権力機構に守られてその強さを演じていたに過ぎない。飯島はその組織からはじき出され、孤独と絶望に打ちひしがれていた。まして狂気が生んだ事件に巻き込まれ、女房にも逃げられた。
 自暴自棄が、剥き出しの粗暴さを露呈させたのだ。石倉は、飯島の心の深淵に潜む獣性を感じて、恐怖に襲われたのだ。石倉の涙を貯めた赤い目がそれを物語っていた。
[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ