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無明のささやき
第八章
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「会社への抗議だったのでしょう。それに保険金ですよ。自宅のローンも、死んだ後の家族の生活費も、坂本さんが死ぬことによってすべて解決した。そのために自殺したんです。」
「へー、偉いもんだな。ところで、噂じゃあ、お前も女房に逃げられたって?」
「さすがに地獄耳ですね。ってことは離婚の原因も知っているんでしょう。」
「ああ、女房を寝取られたって聞いたよ。それじゃ、俺の方がましだな。うちの奴は酒乱の俺に愛想をつかして逃げちまった。でも、あんな仕事させられたら、誰だって酒乱になっちゃうよ。そうだろう。」
「ええ、全くそのとおりですよ。」
「それにしても、似たような人生歩んでいるな。」
と言って、からからと笑った。飯島は、お前と一緒にされてたまるかと思ったが、それを否定出来ない自分が悲しかった。竹内はひとしきり笑うと話題を変えた。
「そうそう、俺、こんどこういう会社をやってるんだ。何か縁があったら、宜しくたのむよ。」
竹内は、名刺を差し出し、
「お前も俺の後任で大変らしいけど、まあ、頑張れよ。じゃあ、元気でな。」
と言って、裏口から支店の中に消えて行った。
しばらくして車が飯島の横に止まり、ドアが開けられた。飯島が乗り込むと、支店の主、万年係長の臼井がにやにやしながら声を掛けてきた。
「新旧の資材物流センター長が鉢合わせとは、驚きましたね。」
「ああ、全くだ。だけど、首になった竹内が何しに来たんだ。本来であれば出入り禁止のはずだ。」
「ええ、そうですよ。普通だったら顔なんて出せないし、出来高払いのリベートだって払いはしませんよ。」
「えっ、あいつにリベートを払っているのか。つまり談合に出て仕事を取ってくれば受注高の何パーセントを支払うっていうやつか。」
驚きの声をあげる飯島に、臼井は焦らすような素振りで、タバコに火を付けた。飯島が臼井の脇の下を人差し指で突くと、体を捩じらせ、笑いながら答えた。
「それだけじゃ、ありませんって。うちの親戚の臼井建設を通して竹内に給料を払っているんです。何か変じゃありません。」
 臼井の遠い親戚が経営する臼井建設は地場のゼネコンでニシノコーポレーションの下請である。名古屋支店の協力会社の順位でも上位に位置する。臼井がリストラを免れたのはこのコネクションのおかげなのだが、そこを通して給与が竹内に支払われているという。飯島が呟いた。
「そんな重大案件は支店長の権限外だな。ということは、南常務の指示ってことか。そう言えば、さっき誰かが、南常務がしょっちゅう名古屋に来てるって言っていた。」
「ええ、月に3回は来ていますよ。それに、あの今井支店長は南の指示なしには何も出来ない人ですから、臼井建設の件は南常務も知ってるってことですよ。」
「どうも怪しいな。社長は知っているのかね。」
「さあ、どうなんですかね
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