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無明のささやき
第八章
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から自殺した。リストラ犠牲者の葬式に出るのはこれで二度目だ。」
斎藤の顔が歪んだ。
「もう私を責めないで下さい。確かに飯島さんは格好良いし、実力もあるし、誰からも尊敬されている。そんな飯島さんと違って私なんて才能も何も無いただのデブだ。だから人にすがって生きるしかない。それ以外、私に一体どんな生き方があるって言うんです。」
自分より8歳も年上の男が、よいしょしながら、涙顔で訴えている。無理矢理搾り出した涙が頬を伝った。並の根性ではない。飯島は呆れるというより、斎藤の生き様そのものにうろたえた。
「分かった、もう何も言うなよ、斎藤さん、あんたの涙なんて見たくない。もう分かったから泣くなって。頼むよ。」
「飯島さん、何とかなりませんか。今、職を失ったら、私はお終いだ。どうしたらいいか、本当に分からないんです。くっくっくっく。」
「ああ、分かった。何とかする。とにかく泣くなって。」
飯島は斎藤の女々しさ遮るために話題を変えた。
「まったく、社長が会長に退いてから、全ての歯車が狂い出した。遅くれてきたリストラだから、その分過激で性急だった。古参の管理職を地獄に突き落としたんだ。」
涙顔の斎藤を一瞥して続けた。
「もう一年、もう一年、会長にやらせていれば何とかなった。それを肝っ玉の小さな銀行屋が潰した。曙光は見えていた。市場の手応えもあったんだ。」
飯島は唇を噛んだ。そして、もう終わったかと思い、横をちらりと窺うと、斎藤は尚も嘘泣きを続けていた。思わず、ため息が出た。

 葬式は自宅で行われていた。人々が門前のテントで記帳していた。「潟jシノコーポレーションの方はお断りしています」という立て札が、喪主の強い意思を表していた。喪主である坂本の女房は、葬儀を取りし切ろうとした会社の申し出を断わり、その出席さえ拒否したのだ。
 飯島は社名無しの香典を受付に出し、焼香の列に並んだ。少し前に知った男がいた。飯島の後任で名古屋支店の営業部長になった石川である。立て札に逆らって来ているところは、やはり飯島が後任に押しただけの根性を持っている。
「おい、石川。」
石川は振り返ると、ほっとしたように顔をほころばせ、列を離れ飯島の隣に来た。そして脇に佇む斎藤を見て言葉を掛けた。
「おやおや、斎藤さんも一緒ですか、これは、これは。」
斎藤は石川をちらりと見て、そっぽお向いた。飯島が言った。
「やはり、奥さんは怒っているわけだ。」
「当たり前ですって、誰だって頭にきますよ。まして、遺書があったようです。会社のことも書いてあったんでしょう。」
「そうだろうな、坂本さんくらい会社思いの人もいなかった。その坂本さんをあな酷い目に合わせたんだから。全く、うちの新経営陣は、アメリカ直輸入のリストラを会社再建の唯一の手段だと思いこんでいやがる。他のやり方なんて眼
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