第八章
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んと二股をかけていた。章子、いい加減にしろよ。お前が全部ぶち壊した。お前が俺から全てを奪ったんだ。」
唐突に電話が切れた。ツーツーという音だけが耳に残った。
ウイスキーの瓶を引き寄せ、蓋を開けると、直接口にあてがった。瓶を逆さまにしたが、僅かな滴りが舌先を濡らしただけだ。飯島は、その瓶をテレビに投げつけた。ボンとくぐもった音が耳に残った。何もかも、どうでもよかった。
冷静になるに従い、飯島は章子を傷つけてしまったことを、後悔していた。考えてみれば、章子を誘ったのは飯島なのだから。章子とのセックスを散々堪能しておきながら、それが原因で家庭崩壊を招いたなどという理不尽な感情を爆発させたのだ。酔っていたとはいえ、その理不尽さは常軌を逸していた。
しかし、章子の妊娠したという嘘を考えると、自分の態度は当然だったような気もする。まして、嘘でないとするなら、章子は飯島以外の男とも関係を結んでいることになる。飯島の酔って充血した瞼には、かつて第一営業部の誰もが憧れた章子の面影が浮かんでいた。溌剌として輝いていた。そんな章子のイメージが色褪せて歪んでいった。
酔いが体全体を包んで行く。睡魔が襲ってくる。「寝るほど楽はなかりけり。」死んだお袋の口癖が聞こえてきた。そうだ、夢でも見よう。楽しい夢を。
斎藤に体を揺り起こされた。どうやら、目を閉じて考え事をしているうちに寝入ってしまったらしい。斎藤が飯島の顔を真正面から見つめていた。我慢出来なくなったのだ。斎藤の口がぱくぱくと開閉していた。言葉として耳に届くまで時間がかかった。
「所長、そんなに冷たくしないで下さい。僕は必死なんです。子供もまだ大学生で金はかかるし、今、首になったら、坂本みたいに首を吊るしかありません。それを分かっているくせに、所長はだんまりを決め込んでいる。私に死ねって言うんですか。」
何もかも面倒くさかった。斉藤になどかまってなどいられなかった。
「何も死ねなんて言ってない。そんなこと言うけど、君は竹内元所長と組んで多くの仲間を路頭に迷わせた。皆を精神的に追い込んだ。俺のやってることと同じことじゃないか。」
「でも、私に何が出来たって言うんです。竹内に逆らえばどんな仕打ちを受けるか、飯島さんが一番良く知っているでしょう。私は竹内の言いなりになるしかなかった。」
「ああ、竹内さんの性格はよく知っている。あんな奴をあそこに送り込んだ新経営陣の思惑がどこにあったか誰でもすぐに分かる。」
「そうです、私も竹内さんに言われました。俺の言葉は絶対だ。逆らえばお前もあっち側に立つことになるって。協力するしかなかったんです。私だって相当の覚悟をしなければならなかった。」
「だからって、人を自殺するまで追い込むなんて人のすることではない。坂本さんだけじゃない。俺と同期の青木はセンターを辞めて
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