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無明のささやき
第七章
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せ、プライドだけを必死に守ろうとしていた自分の卑小さが悔しかった。
 結局、飯島は軽蔑していた父親と全く同じ資質を持ち合わせていたのだ。だからこそ二人は互いを深く理解することなく13年と言う歳月を無為に過ごしてきてしまったのかもしれない。
 今、そのプライドは粉々に粉砕されてしまった。和子に首にされたように、会社からそう言い渡されるのも時間の問題である。搾り出そうにも、飯島にはプライドの残滓さえ残っていない。
 せめて、最後の言葉だけは、飯島のプライドに見合う流儀で締め括ろう。そう思った。
「和子、幸せにな。子供が出来たら、知らせくれ。必ずプレゼントを贈る。それから、石原さんとのこと、少しも恨んではいない。そう伝えてくれ。それじゃあ、石原さんに、宜しく。」
きっぱりとここで電話を切った。

 飯島は、体から魂が遊離したかのように空しく日々を過ごした。しかたなく、和子が置いていった貯金通帳から30万円下ろし、パチンコに通った。三日間、朝から晩まで座り続け、ようやく無一文になった。
 事件から何日かで、会社は正月休みに入ったはずだ。今、街は正月一色に染まって、ただ一人、飯島だけが世間から取残されていた。飯島は会社に残る意味を失った。妻に対するプライドから、すっかり開放されてしまったからだ。外にも出ず、だだっ広い家にぽつんと座って時間を過ごした。正月休も終わり、二日が過ぎている。
 思えば、人がいるからこそ、空間に意味がある。和子とこの家に入った時は、親父をふくめ三人の家族が、それぞれの空間を占めていた。それが、一人きりになってみれば、なんと空しく無駄な空間だろう。つくづく孤独が身に沁みた。

 その日の夕刻、斎藤副所長から電話が入った。彼は資材物流センターの情報源として石倉から重宝されていることを唯一の心の支にしていた。或いは、石倉から次期所長とおだてられているのか、最近、飯島に限らず、誰にたいしても態度が横柄である。
 竹内の腰巾着だっただけに、弱い立場の者に対して更に強気に出る。
「飯島所長、まったく、こんな肝心な時に会社にいないんだから。事件は無事片付いたんでしょう?それに、もう休みは終わってますよ。この二日間どこで何をしていたんです?大変ですよ、本社では大騒ぎです。」
「いったい、何があった。どうしたんだ?」
「どうしたんだなんて、あんた。悠長なこと言っている場合じゃないですよ。」
ここで、飯島が切れた。
「前置きは、いい。何があったか、さっさと話せ。」
飯島の怒鳴り声に、斎藤は息を呑むと、息せき切って話し出した。
「車両部の坂本がじ、じ、自殺したんです。しかも、本社の車庫で。マスコミも嗅ぎ付けて本社の前をうろちょろしてるようです。石倉部長は飯島所長の管理不行き届きだと仰っています。」
「坂本さんが、自殺しただと。
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