濁り銀
朱銀
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霧の森における作戦が失敗に終わり、我々白光教会は次の目標を「蒼風の谷」に定めた。
このダンジョンは常に海からの強い風が吹き、四ヵ国連盟の中では一番起伏のないダンジョンだ。あたり一面に荒野と灌木、大小の岩石があるだけで風がなければこれほど楽なダンジョンはない。
先日攻めた霧の森にリトライしてもよかったのだが、連中も馬鹿ではないようで警備が強化されている。いかに高位の転移魔法があるといっても巨石の近くに転移できるだけ。儀式部隊に損失が出ては作戦は成功しない。一人が欠ければ他の者の意識が逸れて、解呪魔方陣に供給される魔力が減少し、魔方陣自体が崩壊する。その時供給されていた魔力が行き場を失って暴走する危険がある。
いかに魔法に精通した儀式部隊や司祭がいてもこれを抑えることは困難なことだ。ワタシ達鏡の騎士を以てしても。
故に未だ他の者の手が伸びていない蒼風の谷の最奥部に位置する、巨石に白光教会は目を付けた。
そんなある日、日々の鍛錬が済んでやることもなくシルバが教会内をフラフラしていると鏡を見つけた。
そういえばここ最近「自室」でゆっくりしてない。
勿論教会内にも彼女の自室はあるのだが、そこは半分彼女の研究室と化しており、のんびり時を過ごし疲れを癒す場ではないし、いつ教会の者が来るかわかったものではない。
ただ、反転世界にはほかの兄弟や姉妹がいる。中にはあまり仲のいいものもいるがほとんどが面識がない。
まあ、「自室」に入ってしまえば彼女のモノだ。
いつも通りの魔法で鏡に波紋を作って「中」に入る。
反転世界には上も下も左右さえもない異質な世界。並の人間ならば入った瞬間に発狂してしまうだろう。おまけに重力も不安定、必ずしも足元の方向に重力が向いているとは限らない。
しかし、ここは鏡の騎士の世界。銀の騎士の名を持つ彼女にはどこが危険かよくわかっている。そのポイントを避けつつ、ついた先にあるのは歪に曲がった家屋。その戸を開けようとしたとき彼女を呼ぶ声がした。
「シルバお姉さま。」
彼女から見て上の方向にシルバと同じくらいの背格好の女の子がいた。その子はちょうど上を向いていた。シルバから見れば天井に人がいるように見える。
だが、彼女は慌てない。反転世界は彼ら鏡の騎士の庭なのだから。
「ひさしぶり、アメリス・ミラー。」
「お姉さま、何度も申しますようにフルネームで呼ぶ必要はありません。」
「いいのです。何年もこう呼んできたのだから今更変えられない。」
アメリス・ミラーの髪は朱く透き通るような美しさがあり、雪のような銀髪を持つシルバとは対になる色を持っている。
アメリスは軽く地面を蹴ってシルバのすぐ脇に降り立った。
「……、お姉さま。」
「なに?」
「なにかありました?」
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