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無明のささやき
第三章
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いろいろとあって、落ち込んでいるよ。それはともあれ、お疲れさん。」
互いのグラスを合わせると、飯島は乾いた喉に一気にビールを流し込んだ。
 飯島は、佐久間の、落ち込んでいるという、いささか当たり前すぎる言葉に、思わず神妙な面持ちになっていた。なんといっても取締役候補だったのだ。はきだめが似合う人ではない。佐久間は、そんな深刻面の飯島に苦笑いして応えた。
「落ち込んでいるのは君も同様だったな、これは失礼。それはそうと箕輪に会ったって?」
「ええ、久々に痛飲しました。彼は数社から誘いがあるみたいですね。」
佐久間は、むっとした顔で吐き捨てるように言った。
「奴はもともと談合屋だ。談合屋なんてヤクザと同じだ。例の産廃プロジェクトで知り合った呉工業の息子とつるんでいる。」
「呉工業というのは会長の戦友が社長をしている、あの会社ですよね。」
「ああ、あの社長も今はそれなりにとり繕ってはいるが元々ヤクザだ。まして、その息子は本物のヤクザ、飯田組の組員だ。あの社長は勘当したなんてほざいていたが、嘘に決まっている。」
「しかし、結局、産廃施設解体現場の労務者手配はそうした人間に頼るしかないってことなんでしょう。箕輪は産廃プロジェクトのリーダーだった。しかたなく付き合っているんじゃないですか。」
「いや、違う。奴は左遷された今でも、そいつと飲んでる。あんなヤクザと付き合うような奴は、ろくなもんじゃない。俺は分かっているんだ。あいつは会社のスパイだ。ここの不穏分子を洗い出すために会社が送り込んだスパイだ、間違いない。」
「佐久間さん、ここでは誰もが不穏分子だけど、会社には手も足もでないですよ。」
「会社側はそうは思っていない。不穏分子をあぶり出し、葬ろうとしている。」
飯島は、ふと、箕輪の言った言葉を思い出していた。佐久間は何かをしようとしている。その何かを会社側が探っていると妄想しているのかもしれない。
 飯島の冷めた表情を上目遣いに一瞥し、佐久間は論理の飛躍に自分でも気付いたようで、ふと、ため息を漏らして話題を変えた。
「そういえば、実は離婚した。俺もよくよく女運が悪い。二度も離婚するなんて。」
これを聞いて、飯島は言葉を失った。佐久間の女房と飯島は、かつて営業部の同じ課に属していた。飯島より八歳年下であったが、センスの良いプレゼンテーションが好評で、営業成績でも男たちと肩を並べていた。
 当時、人事部次長であった佐久間の英断で女子営業部員を採用したのだが、佐久間の二度目の妻、章子はその第一期生だった。しばらくの沈黙の後、飯島はタバコの煙を吐き出しながら言った。
「営業部の頃から、彼女は自分勝手なところがあった。何もこんな時に・・・離婚だなんて。とはいえ、まあ、夫婦のことを他人がとやかく言うことでもない。」
飯島は佐久間がこんな屈辱に耐
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