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無明のささやき
第二章
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顔で言った。
「だが、その佐久間さんは死んだ。今の佐久間さんは別人だ。何かに取り憑かれている。」
「復讐か?」
「ああ、そんなことだろう。俺も仲間に誘われた。報酬は金だ。金づるがあるんだそうだ。それを、俺に持ちかけた時の顔は、ちょっとしたホラーだったぜ。」
「まさか、あの人が・・・」
飯島は暗然として押し黙った。箕輪が言った。
「佐久間さんは確実に何かを引き起こす。俺は、何が起こるのか見たい。それに佐久間という人間がどう壊れていくのか見ていたい気もする。」
「それがここにいる理由か?」
「勿論それだけじゃない。しかし、興味があることは確かだ。普段はまったく普通だ。冗談も言うし、笑いもする。だけど、心は壊れかけている。」
「昨日、電話があった。来週の月曜に駅前の飲み屋で待ち合わせている。」
「あの汚ねえ飲み屋か。兎に角、会って確かめろ。恐らく最初から本性は現さない。そのうちだ。」
その晩、二人は酔いつぶれるまで飲んだ。東長崎に住む箕輪はまだ電車があったが、飯島はタクシーで帰る羽目になった。車の冷房が心地よく飯島の頬を撫で、ここ一ヶ月、冷たい視線に晒されて強張っていた頬が一瞬緩んだ。あの時の情景が瞼に浮かんだのだ。
 日本拳法は剥き出しの闘志を以って相手と対峙する。防具に身を包んでいるため容赦はいらない。倒れた相手の面を踏みつけても一本だ。飯島はそんな男同士の戦いが好きだった。しかし、実社会の男同士の争いはそれこそ女の世界より陰湿でじめじめしている。
 いじめはいじめと認識されず、無能力を憎む感情に置き換えられる。民間では無能力は憎まれて当然の資質なのだ。無能力を放置すれば会社の存続が危ぶまれることになるからだ。飯島もその烙印を押された。しかし、今の飯島はそんなことも忘れて微笑む。
 飯島の夢うつつの脳裏に、箕輪と初めて対戦した時の情景が浮かんでた。リングサイドで相手チームのコーチが叫んだ。「おい箕輪、柔道三段だろう。相手を投げ飛ばしてやれ。床に叩きつければ、それでも一本だ」これを聞いて、飯島は闘争本能を剥き出しにしてコーナーを飛び出した。飯島は高校で柔道を少しかじって初段だったからだ。

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