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無明のささやき
第二章
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上司と相談し、箕輪をリクルートした。なかなか首を縦に振らなかったが、飯島は上司とともに一年かけて彼を説得したのだった。
 飯島の思惑はあたった。箕輪は談合屋として実力を発揮し、官庁からの受注は確実に増えていった。バブルがはじけ、苦しい時代も他の官庁営業マンなど比較にならないほどの受注を獲得した。しかし、箕輪は南常務を軽蔑していた。それがここにいる理由なのだ。
 憂鬱な気分を忘れて、しみじみとした思いに浸っていた。そんな時、いきなり耳障りな電話の電子音が響いた。同じ電話の音なのに何故そう感じたのか分からない。だがそれは箕輪の時と異なり確かに耳障りに聞こえたのだ。緩んだ頬を引き締め、受話器をとった。
「飯島さんですか、石倉です。どうです、初日の感想は。」
思わずため息が漏れそうになるのを飲み込み、ありきたりの言葉を選んで応えた。
「ええ、難しい仕事だとは思いますが、鋭意努力してゆきます。大変な使命に緊張しているところです。」
 石倉は再度、使命について念を押してから電話を切った。箕輪がくれた清涼感など胡散霧消していた。
 飯島の言った「使命」という言葉については、昨日、石倉から本社に呼ばれ改めて念を押されたのだ。使命とは言うまでもなくリストラ、しかも早急にというおまけまでついている。石倉は昨日、最後にこう結んだ。
「とにかく、心して対処して下さい。何度も言いますが、これが出来るのは、飯島さんしかいません。私の判断は間違っていないと思っています。どうか、期待に応えて下さい。」
「ええ、分かっております。」
 飯島は、これ以上言うべき言葉を持っていなかった。石倉のこの言葉ほど空々しいものはない。石倉は飯島が失敗することを心から望んでいる。二人の視線は奇妙に絡み合う。沈黙を破ったのは勿論石倉だった。
「それでは、そういうことで。」

 箕輪が言った例の店とは、社会人になって二人が再開したその晩、初めて二人が訪れた店である。その時以来何度となく待ち合わせをした店だ。飯島が入ってゆくと、マスターは首を横に振った。まだ来ていないという意味だ。
 カウンターだけのこじんまりした店で、マスターは店のオウナーで、たまたま箕輪の大学の先輩でもあった。飯島がカウンターに着くと、マスターは迷うこともなく大ジョッキを棚から取り出している。飯島はこの数日のストレスが氷解してゆくのを感じた。
 箕輪が来たのは約束の時間を30分過ぎてからだ。野武士のような風貌に口髭が良く似合う。ジーンズにTシャツということは一度家に寄ったようだ。大きな体をかがめ隣のスツールに腰を落ち着けると、「生ビール大ジョッキ」とマスターに声をかけた。そしてにやりと笑って、口を開いた。
「この間は悪かったな、せっかく誘ってもらったのに。ちょっと用事があってな」
「半年も前のことなんて覚えて
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