冷や汗
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「もしかしてWayaさんですか?私、名前まで言いましたっけ」
目の前の席まで来て、俺に微笑む男。冗談じゃない、声まで、一緒?思考が停止しそうになったとき、呆けていた和谷が割って入った。
「あ、こっちが和谷」
軽く手を挙げて自身を示す。和谷は内心動揺していた。何もネットの向こう側の相手がこんなにも想像とずれていたなんて。和谷の想像像はさておき。
「そうですか!はじめまして、和谷さん!」
それを聞き、惜しげもなく笑顔を満開に咲かせる男。男にどきどきするなんて不覚中の不覚だが、これをごまかすために、不審なほど動揺して席に座るのを勧めた。そして青年はヒカルの隣に失礼します、と断ってから腰を下ろし、暑かったのだろう、ふーっと息をついた。
「あ、えと、紹介するな。こいつは進藤ヒカル。今日はちょっとついてきてもらったんだ。ネットの相手と会うなんて初めてで、何となく。あ、こいつも同じプロだぜ」
ヒカルは目を見開いて佐為に似た青年を凝視していた。近くに来たことでさらに動悸が激しくなり、居ても立ってもいられなくなる。革張りのソファーに置いた手の平から、汗がにじむ気がした。
「そうなんですか!二人もプロの方と会えるなんて!よろしくお願いします、和谷さん、進藤さん」
よほど興奮した様子で、嬉しそうに言葉を紡ぐ青年に和谷は照れた様子で頭に手を添える。
「私は藤原、藤原佐為といいます」
今や思考が止まりそうなほどの頭のパンク状態で、ヒカルは嫌な汗をかいて、隣に座る男に恐怖を感じていた。ここまで偶然が重なると、笑えない。ガタガタと震えだすヒカルに和谷が気づく。
「おい、進藤、大丈夫か?なんかおかしいぞお前」
「わ、和谷、ちょっと俺、帰る」
「え?どうしたんだよ、お前。そのまま帰ったら危ないぞ」
俯き震える挙動不審なヒカルに、和谷は身を乗り出してヒカルの肩に手を置く。目を閉じて真っ暗な視界の隅で、佐為の声をヒカルは聞いた。
「え?え?大丈夫ですか?どうしましょうっ」
もう佐為としか思えなかった。この慌て方も、そっくりだ。恐怖はいつしか薄れ、これは夢だと決め込んだ。夢から醒めようと閉じていた目を見開く。驚くほど瞼が簡単に上がったものだと思った矢先に、それは来た。視界に入ったのは、俺を見て動転した佐為の様子だった。夢が何重にも重なっているのか、俺がおかしいのか、もう分からなかった。
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