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ラ=トスカ
第四幕その三
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え」
「なら良し。スポレッタ、扉を閉めろ」
「はい」
 その命令通りスポレッタは急いでドアを閉めに行った。そして小走り気味にスカルピアの下へ戻った。
「考え直した。子爵は銃殺とする」
 そう言って一呼吸置いた。
「パルミエーリ伯爵の時の様にな」
 真顔で何か意味ありげにスポレッタを見て言った。
「殺す・・・・・・・・・」
 スポレッタも真顔で言った。だがそれをすぐに打ち消す様なスカルピアの言葉が発せられた。
「いや、見せ掛けだ。パルミエーリ伯爵の時と全く同じ様にだ。寸分違わぬようにな。・・・・・・・・・解ったな」
「解りました。パルミエーリ伯の時と同じ様に」
 明らかに意味ありげな主の言葉にスポレッタは妙に丁寧に答えていた。そして一瞬トスカに目をやった。何か悲しみを帯びた目だったが二人の言葉にのみ気を張っていたトスカは気付かない。だがパルミエーリ伯と同じ様に、という言葉が強く残った。
「よし行け、あとこの御婦人は囚人ではないから城内を自由に歩かれても城内に出られても構わない。階段の下に部下を一人置き後でこの方を子爵のおられる礼拝堂まで御案内するように。四時にこの方が最初におられた部屋に来てな。いいか、四時だぞ」
「解りました」
 そう言って一礼してスポレッタは退室した。部屋を出る時チラリとトスカの方を見たが当のとスカもスカルピアもそれには気付かなかった。閂の落ちる音が二人のいる室内に響き渡った。
「私は約束を守った」
 トスカの方を振り向き言った。そしてトスカの方へ歩み寄って行く。
「いえ、まだです。あの人と一緒にローマを発てる様に旅券を頂きたいのです」
 トスカは涙で崩れた顔で言った。
「宜しい、では望みを適えさせてあげよう」
 心の中で何か思いつつも机のところまで行き立ったまま書き始めるが暫くして手を止めた。
「どの道を?」
「一番近道を」
 トスカはにべもなく答えた。
「チヴィタヴェッキア?」
「はい」
「解った」
 スカルピアはまた書き始めた。彼が旅券を書いている間トスカは食卓へ向かい気を落ち着かせる為先程スカルピアが注いで勧めたスペイン産の赤ワインを取った。だが手が戦慄いている。しかも雪の様に白くなっている。冷たい。その手で杯を口まで持っていこうとする彼女の目に食卓の上のナイフが入った。見れば先が鋭く尖っている。

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