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ラ=トスカ
第四幕その二
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おやおや」
 トスカは丁寧に断った。それに対しスカルピアは表情を変えず両肩を少しだけ上げておどけた様な仕草をして見せた。
「言っておきますが私は酒には何も入れませんよ。我々シチリアの男はその様な手は使わない。縛り首か、鉛の弾か。我々は全てをそれで解決する。とりわけジャコビー二に対しては。まあ窓を御覧なさい」
「何が!?」
 トスカは訝しげに問うた。
「何、大した物ではありません。絞首台を二つ用意したのです。一つはこれから来る男の為に。そしてもう一つは今この城にいる男の為に」
「まさか・・・・・・・・・!」
「そう、貴女の愛する子爵の為のものだ」
「そんな・・・・・・・・・」
「子爵殿は脱獄囚を匿って更にその囚人を逃がしてしまった。その罪は極刑に値する。因って明朝このサン=タンジェロ城にて絞首刑に処する事となった」
「・・・・・・おいくら・・・・・・・・・?」
 いささか上目遣いでスカルピアに問うた。彼が袖の下に弱いという噂をトスカも聞いていたからだ。
「ほう」
 その言葉にスカルピアは嘲笑を込めて返した。
「成程、確かに世の者は私を袖の下に弱い男という。だが美女には金で首を縦には振らない。法も忠誠も見て見ぬとすれば他の報酬を求める」
「それは・・・・・・?」
 スカルピアの黒い瞳が闇の夜の野獣のそれの様に光った。
「貴女自身だ」
 この時トスカは初めて全てを理解した。自分が何故この城のこの部屋に呼ばれたのかを。
「私の務めは果たされようとしている。軍人が刀や銃を収めると同時に闘いを忘れる様に今の私は一人の男だ。今夜は貴女の女としての本当の姿を見る事が出来たしな」
 とファルネーゼ宮、そしてカヴァラドゥッシの別邸での事について言った。
「ファルネーゼでの歌う姿、そして別邸で苦しみ悶える姿、それ等が全て私の心に抑えられない炎を呼び起こさせた。私が今までこの手にした多くの女達とは違う。どの様な手を使っても私のものにしてみせる」
 そう言うとトスカの方へゆっくりと歩み寄って来た。それを見てトスカは身を翻して言った。
「私の心も身体もあの人だけのもの、他の人のものになる位なら私はこの窓から身を投げます!」
「どうぞ御自由に」
 スカルピアは素っ気無く言った。
「子爵も後から追うことになるな。もし貴女が私の言う通りにすれば良し、さもなければ絞首台だ」
「怖ろしい・・・・・・身の毛もよだつその言葉・・・・・・・・・」
 その時左手の壁に王妃の肖像画を認めた。慌てて扉の方へ走ろうとする。
 スカルピアは黙って立ち止まりそれを見ていた。トスカが扉に手を掛けようとしたその時に言葉を発した。
「どうぞ御自由に。私は手荒な真似はしない。だが王妃は既にナポリへ発たれた。もし貴女が王妃とお会い出来ても王妃は絞首台上の死体に恩赦
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