第伍話 《真っ黒》〜後編〜
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はねぇか」
背後から聞こえた声の距離と位置を瞬時に目測し突進、影也に向かって刃を振るう。
シキの耳に、プンという音が聞こえ、影也へと振るわれたダガーは空を切った。
「遅すぎるんだよ!」
半瞬ほどの短すぎる時間をおいて、影也の蹴りがシキの後頭部を捉えた。
瞬間移動並の速すぎる移動速度、一発一発の攻撃を的確に死角から食らわせる判断力、更に一瞬ですべてを殺せる《直死の魔眼》を持つ怪物。
影也とはそういう存在なのだ、と今更ながらシキは理解した。
後頭部を蹴られ、しばし地面に倒れていたシキは、ゆっくりとその身を起こした。
本来敵の前で緩慢な動作で起き上がるなど、自殺行為と同じだ。だが、影也はそんな殺し方で納得するようなヤツではない。
シキは理解している。彼は、影也という殺人快楽者は、抵抗する者の命を刈り取ってこそだ、と。単純な加虐者ではなく、獲物を狩る狩り人であるのだ、と。
「……楽しそうだな」
完全に起き上がって、それでも尚襲ってこない影也に問いかける。
影也は既にその姿を消していて、シキではその高速移動を捉えることはできないが、彼は異常者でもあり常識人だ。話しかけている最中に襲ってはこないだろう。
「楽しいさ。自分殺しなんて、そうそう体験できることじゃない」
心の底から楽しそうに、影也は言う。
声の方向は、シキの左斜め後ろからだったが、十中八九もうそこにはいないだろう。
「(…………来るっ!)シッ!!」
殺気めいた粘つく気配を感じ、自身の斜め上の前方から来る気配に向かって斬撃を繰り出す。
影也はその瞬間、驚いていた。自分の来る方向、向かってくる角度、それを読み取り、完璧なタイミングで斬撃を繰り出した。それは常人ならばできることではない。だが、
「惜しかった。読みが、ほんの少し甘かったな」
影也は楕円を描く斬撃をダガーで弾き、返す刀でシキの首筋へと凶刃は走る。
「もし次があるとして、今度殺し合う時はお前が勝つかもな。それじゃ、現実でも頑張れよ。くれぐれも死ぬなよ? 死なれると俺が困る」
○●◎
ナイアはこの世界に生まれ落ちた際、大きな欠陥があると評された。
それが何なのかあの男に質問しても、微笑み返されるだけで、何も言ってはくれはしなかった。
評したのはあの男ではなかったが――誰にだったか――酷く腹が立ったことを覚えている。
あの男に恩義を感じていないわけではないが、自分を生まなければ、誰も死ななかったのではないかと思う時も少なくない。
だが、生きている限り、決して死にたくなどない。
誰の為に生きるのか、と問われれば、彼女は迷いなくこう答えるだろう。
私自身の為に。
と。
○●◎
ナイアはツタが這うパイプオルガンの前に立って、小さく開いた口からは唄が
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