第四章
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「噂以上だね」
「美味いですか、成都の味は」
「お気に召されました」
「美味い、しかし」
「しかし?」
「しかしとは」
「辛いね」
舌をひりひりとさせながらの言葉だ。
「私の生まれは金椒だけれどね」
「ああ、そこですか」
「そこから来られたんですか」
「そうだよ」
周りの問いに微笑んで答える。
「成都まで旅で来たんだ」
「そうなんですか」
「旅で来られたんですか」
「うん、流れの旅人だよ」
笑って言う言葉だ。
「こうして時々旅をしているんだ、本当に成都の料理は辛く美味しいね」
「お気に召されたのなら何よりです」
店の料理人は彼が自分の作った料理の味がいいと言ったことに笑顔で返した。
「ではお酒も」
「悪いね、そっちも好きなんだよ」
「それでお名前は」
一人がここで彼の名前を尋ねた。
「何とおっしゃいますか」
「呉敬梓だよ」
彼は気さくな感じで己の名前を出した。
「字は敏軒はというんだ」
「呉敬梓さんですか」
「そうだよ、仕事は遊び人だよ」
仕事のことは笑って言う。
「それだよ」
「いや、遊び人にはあまり」
「そうは見えないですが」
「ははは、まあ定まった仕事には就いていないよ」
このことは自嘲を込めた笑いで言うのだった。
「まあ親の金を食い潰すろくでなしさ」
「そうですか」
「それでだけれどね」
ここで呉はあらためて王と劉を見て言う。
「二人共何ともないといいね」
「いえいえ、後は及第ですから」
「進士になられるだけですから」
周りは呉の言葉に全く気付くことなく言うだけだった。
「そうなれば凄いですよ」
「もう何でも出来ますから」
「何かを出来るのは人だけだけれどね」
呉はその彼等に貰った酒を飲みながら返した。
「さて、それじゃあね」
「それじゃあ?」
「それじゃあっていいますと」
「豆腐の料理を貰おうかな」
飲みつつそのうえでの言葉だ。
「次は」
「よし、じゃあとびきり辛くて美味いのを持って来ますよ」
「お手柔らかにね」
どう見ても味わっていない二人を見つつ返す、呉は成都の料理の辛さに悶えつつも堪能していたが二人はその辛さすら感じていない様だった。
そして遂にだった、二人は。
進士にもなった、その殿試に及第したのだ。これには町を挙げての祝いになった。
家族も馳走に美酒を卓の上に並べる、だがだった。
二人共その席においても表情を変えない、そして。
乾杯をしてもただ飲むだけだった、箸も動かすだけだ。
何もない、だが周りは二人の及第を祝うだけだ。
進士はやはり違う、二人は宮廷において瞬く間に偉くなっていく、だが二人共その動きは何一つとしてだった。
顔を変えない、反応を見せない。ただそこにいる
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