第三章
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そしてやはり書を読む、することはそれだけだった。殿試の場、皇帝がいるそこにおいても顔も何もかも変わらない。
かなりの苦難を乗り越えた筈だ、しかしそのことにも。
何も感じない、ただ最後の試験を受けて。
二人は落ちた、だがそれを聞いても。
「次だ」
「次また受けよう」
こう言うだけだ、三年後があるという感じだった。
それでまた勉強ばかりの生活に入る、机に向かっていても筆を使っていても学者から話を聞いてもそれでもだった。
二人は表情を変えない、しかも。
言葉も抑揚のないものだった、そして。
その二人を見る家族も周りもだ、こう言うだけだった。
「後は殿試だけ」
「それに受かれば進士だし」
「是非頑張って欲しいな」
「進士になれば宰相になるのも夢じゃないんだ」
「それなら」
周りはただ彼等が及第することだけを願いそれで励ますだけだった、それで彼等がどういった状態なのか誰も気付かなかった。
それは二人の行きつけの店でもだ、彼等が食べていても店の者達もいよいよという面持ちでこう言うばかりだった。
「郷試も会試も通ったしな」
「殿試までいったんだ」
「後はそれだけだ」
「二人揃って進士だよな」
「そうなるな」
「凄いですよ、二人共」
「勉強してきた介がありますね」
彼等がそこまでいき進士となることも手の届く範囲にしていることに憧れと励ましの言葉をかけるだけだった、だが。
店の客の一人であるたまたま成都に来ていた者が二人を見てこう言った。
「あの二人は」
「はい、どうかしましたか?」
「何かありましたか?」
「おかしいね」
自分が注文した成都名物の極めて辛い料理を食べながらの言葉だ。
「どうもね」
「おかしい?」
「おかしいといいますと」
「うん、人間というよりもね」
むしろだというのだ。
「人形かな」
「人形!?あの方々が」
「そうだというのですか」
「表情はないし目の光はないし」
そうした外見を見ての言葉だ。
「それに肌の色も悪い、動きもかたかたとしている」
「だから人形だと」
「そう仰るのですか」
「うん、そう思うよ」
旅人は首を傾げさせながら言うのだった。
「おかしいね」
「ですか」
「そう思われますか」
「私の思い違いかな」
こうも言う彼だった。
「だといいがね」
「お二人共殿試まで行かれてますから」
「凄い方々ですから」
最早それだけで凄いというのだ、殿試に入っただけで。
「後は進士です」
「それになられますよ」
「それは凄いけれどね」
だがそれでもだというのだ。
「人間から人形になっていなければいいね」
これがこの客が二人を見ての言葉だ、そして。
彼はその成都の料理を味わいつつその話をした。
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