第一章
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科挙
かつて中国には科挙というものがあった。
所謂官吏、それも高級官僚の登用試験だ、中国ではこの試験を隋代のころからはじめ長きに渡って続けてきた。
それは清代も同じだ、満州人の征服王朝であるがこの王朝は皇族ですらその満州人の言葉を忘れる程漢化していた。康熙、雍正、乾隆の三代の皇帝達は漢人の学者達とも話せる程漢人の学問に通じていた。
それ故に漢人の歴代王朝のあり方も全面的に取り入れていた、無論科挙もだ。
四書五経をはじめとした様々な書から試験が出される、それでだった。
書生達は学問に励み及第、つまり試験に最後まで合格することを目指していた。だがこれは途方もない難題だった。
成都の若い書生である王は飯屋で麺をすすりながら同窓の劉にこうぼやいた。
「また試験だけれどな」
「相変わらずだな」
「ああ、君の方はどうだい?」
王はそのぼやく顔で劉に問うた。
「いけそうかい?」
「もう四書五経は全部覚えたよ」
全て合わせてばかなりの量だ、しかしその全ての文章をだというのだ。
「何もかもね」
「僕もだよ」
「もう全部そらんじて言える程だよ」
暗唱出来るというのだ、四書五経を全て。
「それこそね」
「最低でもそうしないとね」
「科挙に受かるなんてね」
とても出来ないというのだ。
「そしてそれだけじゃないからね」
「そこからだからね」
それが科挙だというのだ、二人で麺をすすりつつ話す。
「あらゆる書を隅から隅まで何度も読んで」
「それで頭に入れてね」
読むべき書は四書五経以外にも多くある、そしてその全てをなのだ。
「それでだから」
「いや、三年に一度だけれど」
科挙は三年に一度行われる、毎年ではない。
「今度はね」
「それこぞ何万も受けてね」
そしてだというのだ。
「最後の試験、皇帝御自身行われる殿試に合格出来るのは僅かだよ」
「十人いればいい方だね」
「そう、そんな試験だからね」
だからだというのだ。
「本当に難しいよ」
「全くだね」
「幾ら勉強してもね」
そのうえで試験に挑んでもだというのだ。
「受かるかどうかはね」
「かなり難しいよ」
「本当に受かる人なんているのかな」
劉もぼやく、王と同じくそうした。
「いや、本当にね」
「郷試ならいるよ」
下の方の試験ならというのだ。
「会試はまだね」
「けれど殿試となると」
「それこそ受かる人間は僅かだよ」
少なくとも数万人が受けて及第するのは十人かその辺りだ、極めて狭き門だ。
「及第すれば宰相になることも夢ではないけれど」
「それでもね」
「いや、凄いものだよ」
これ以上はないまでに厳しく狭い門だ、それで彼等はぼやきながら話すのだった
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