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呉志英雄伝
第五話〜調練〜
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『は?』







江の告げた内容に一同が一様に声を発する。


「…聞き間違いでしょうか?『鬼ごと』と聞こえたような気が………」


先ほどまで得物を振るっていた少女が恐る恐る江に尋ねた。それに対して江は満面の笑みで応える。


「いいえ、あなたの言う通りですよ」


肯定の言葉を聞き、新兵達は呆然とした表情を浮かべる。
そんな中だった。


「少しお待ちいただきたい!」


その声は高く大きく、そして怒りに満ち満ちていた。
声の主であろう長身で小麦色の体躯、そして短く蒼い髪の女性が集団の奥から人波をかき分けて出てきた。


「何でしょうか?」


その怒声を聞いても尚、笑みを浮かべたまま江はその女性と正対する。


「率直に言わせていただこう。調練の内容に納得がいかない。そして意味を見出すことができない」


江の疑問の言葉に女性は毅然とした態度で言い切った。その様子を見て、江は口元に袖をやる。
………つり上がった口角を隠さんがために。



「それはまた…詳しくお聞きいたしましょう」


「われわれは各々の決意を胸に抱いて、兵に志願したのだ。だというのに、既に名高い孫伯符様が担当してくださるという調練がどこの馬の骨とも知れぬ文官如きに仕切られ、挙句の果てには児戯である『鬼ごと』をやらされるとは侮辱もいいところだ!」



ここまで言って、女性は言葉を切る。本当はもっと言いたいのだろうが、さすがにそこは調練の担当者に対するなけなしの敬意で踏みとどまっているようだ。
周りの反応も『よく言った』という女性に対しての称賛がすべてだった。




「……そうですか…」




江はそう呟き俯く。周囲の新兵達はその様子を見て『調練の担当者』が『新兵の一人』に『言い負かされた』と理解したのだ。

そう、『誤解』したのだ。
そしてすぐにその認識は誤りであることを思い知らされる。
ほかでもない江の手によって…


「ならばあなた方は孫呉の軍にはふさわしくありませんね」


しばらく沈黙を守り、ゆっくりと顔を上げた江。
そして彼の眼が新兵達に向けられた瞬間、場の空気は凍てついたかのような錯覚を覚えるほどにまで冷え切った。


「調練の内容に意味を見いだせない?これはおかしなことを」


ハッ、と小馬鹿にしたように笑い飛ばす。
女性は反論しようとするがそれを思いとどまる。いや、思いとどまらされた。その場を支配する絶対零度の雰囲気によって。



「そもそも『ただやるだけ』の調練など私が、孫呉がすると思いますか?調練の意味などは兵各々で見出すこと。言われたことしか出来な
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