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一人の男
第三章
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「サトウキビ畑に行かれて下さい」
「わかりました、それでは」
 こうしてモリ達は国立銀行ではなくサトウキビ畑に行くことになった、だがモリの電話の後で。
 彼等はブルガリア大使館において首を傾げさせながらこう話した。
「国立銀行総裁が農作業か」
「それに従事しているのか?」
「確かにキューバはまだ革命から僅かな時しか経っていない」
「前政権の悪事の爪痕は深いし」
「産業も復興していない」
「だがそれでもね」
「そうだね」
 キューバ独特の強い酒にフルーツのジュースを入れたカクテルを自分達で作って飲みながら話していく。
「幾ら何でも国立銀行総裁が自ら農作業を行うのは」
「本当かな」
「パフォーマンスにしても臭過ぎるだろう」
「ましてやゲバラ氏はこの国の事実上のナンバーツーだ」
「アルゼンチン出身でもキューバ人と言っていい」
 尚キューバもアルゼンチンも元々スペインの植民地であり言語はスペイン語だ、だから言語的な問題は何もない。
「その彼がまさかね」
「農作業かい?」
「我が国じゃ有り得ないね」
「ないよ、そんなの」
「ある筈がないよ」
 これはブルガリアだけではない、他の共産圏の国でもだ。
「ソ連なんて書記長は生き神様じゃないか」
「それのナンバーツーだってどれだけ偉いか」
「下々のすることなんて絶対にしないよ」
「まあおおっぴらには言えないけれどね」
 キューバにいるからこそ言えることだ、間違ってもブルガリア本国でソ連の目が届くところでは言えない。
「それでもね」
「うん、ゲバラ程の英雄がそんなことしないよ」
「軍事訓練ならともかく」
「何かの間違いじゃないかな」
「結構以上におおらかな国だしね」
 ここでは無意識のうちにキューバへの決めつけもあった、キューバの底抜けの明るさからこうも言ったのである。
「軍事訓練か何かと間違えたのかな」
「そうだろうね、まあ明日冗談でサトウキビ畑に行くか」
「そこで仕方ないかって顔になるか」
「愛嬌でね」
 彼等は酒を飲みつつゲバラがそんなところにいる筈がないと確信していた、そして。
 その日は甘い酒をしこたま飲んでから寝た、その次の日。
 彼等はサトウキビ畑に向かった、その途中の道では彼等は暑い日差しと気温の中でしこたま汗をかいていた。
「昨日の酒も抜けたよ」
「いや、本当に暑いね」
「こんなの欧州の何処にもないよ」
「いや、ここまで暑いとね」
「違うね」
「ここで生きられるキューバ人が羨ましいよ」
 こうした話もするのだった。
「風光も綺麗だし」
「東欧ってなんだろうね、僕達の国って」
「冬は長く寒いし果物も少ないし」
「バナナなんて何処にもないよ」
「ここに来て本当に食べたよ」
 あのスターリンはソビエトにはバナナ
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