第八章 望郷の小夜曲
エピローグ 終わらない夜と迫る悪意
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立ち上がり傍に立つ男に声をかけた。
「合流する前に奪いたかったのに……仕方がないわね。ワルド、今度は一緒にいくわよ。あなたが囮になってあの男を引き付けなさい―――例え死んでもね」
冷酷に言い放つシェフィールドの言葉に、泥だらけのローブを被ったワルドは何も言わず微かに頭を下げ頷いた。
ワルドが頷くのを確認したシェフィールドは、その場から離れようと足を動かそうとした時、苦しげに歪んでいた顔がパアッと華やいだ。
「ジョゼフさまっ!」
一瞬にして喜色に染まった顔だったが、直ぐにそれは萎れる。
「っ、すみませんっ! 『秘宝』を奪えずに引き下がってしまうなど……弁解のしようもなく……っ! な、何故ですかっ! わたしはまだやれます! 必ずや『秘宝』を奪ってみせ―――あの小娘を使うのですか? いえ、しかしそれは……確かに有効とは思えますが……分かりました」
虚空に顔を向け一喜一憂するシェフィールドは、悔しげに唇を噛み締めるとガクリと力なく頭を下げた。
のろのろと顔を上げると、傍に立ち尽くすワルドに顔を向けず声をかけた。
「っ、今は下がるわ。付いてきなさい……良かったわね、どうやらあなたの寿命が延びたみたいよ」
シェフィールドがゆっくりと歩き出す。
その後ろをワルドが黙って付いて歩く。
「それがあなたにとって良かったかどうか分からないけど……ね」
森の奥に向かって歩き出したシェフィールドたちの姿は、直ぐに森の中に満ちる闇に食われるように消えていく。
シェフィールドたちの姿が消えた森の中に、微かな虫の音だけが響き渡る。
まるで幻のように消え去ったシェフィールドたちがそこにいた痕跡はただ一つ……。
……夜露に濡れた地面に残る、小さな足跡だけ……だった。
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