第四幕その二
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」
「遺言か」
「そういうことになるね」
ルーシェは表情を消した。やはり微笑んで言うことはできなかった。
「それなら」
シェニエは机に目を向けた。そこには先程まで書いていた詩がある。
机の前に進んだ。そしてそれが書かれた紙を手にする。
「これを」
そしてルーシェに手渡した。
「最後にまず読みたいのだけれど」
「いいとも」
ルーシェは頷いた。シェニエはそれを受けて口をゆっくりと開いた。
「ある五月の美しい日の様に」
彼は詩を朗しはじめた。
「それはそよ風に口づけと光の優しい愛撫を携えて、次第に大空に消えていくその陽の様に詩を司る女神の接吻と優しい愛撫と共に私は今私の人生の中で最も高貴なる頂を登っている」
ルーシェはそれを黙って聞いている。
「人の運命はそれぞれだ。私の運命は今終わろうとしている。おそらく私の詩の最後の一行が終わるよりも早く死神の鎌が私に死をもたらすだろう」
死という言葉を聞いたルーシェの顔が暗くなった。
「詩よ、私が愛した詩よ」
シェニエの声が強くなった。
「私にとって最後の詩の女神になってくれ。貴女に仕えるこの下僕に燃え上がる理想と不変なる情熱、この二つの炎をお与え下さい。そして私は貴方に捧げものをしましょう」
彼は顔を上げた。
「貴女が私の心に宿っている間にこの魂を。死に今向かおうとする男の最後の想いをこの詩に託して捧げましょう」
「シェニエ」
「ルーシェ、これで終わりだ」
シェニエはうっすらと微笑んだ。
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