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アンドレア=シェニエ
第三幕その五
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かりだと思います」
 彼女は両目をキッと見開いた。そして叫んだ。
「あの方をお助け下さい!それには貴方のお力が必要です!」
 そう言ってジェラールに懇願した。全てを捨てた顔であった。
「私のですか」
 彼はここで逡巡した。迷いが強くなったのだ。
(どうするべきか)
 彼は一瞬マッダレーナから顔を離した。
(言うべきか。いや)
 顔を少し俯かせた。
(言わざるべきか)
 迷った。だが言うことにした。
「彼を愛していますか」
「はい」
 マッダレーナは頷いた。
「助けたいですか」
「絶対に」
 強い声でそう言った。
「その為にここに来たのですから」
 真剣であった。その為には全てを捨てる覚悟であった。
 ジェラールはその目を見た。唇を噛む。それから言った。
「わかりました。しかし条件があります」
「条件とは」
 マッダレーナはジェラールを見た。
「簡単なことです」
 ジェラールは顔を歪めさせながら言った。再び彼女から顔を離す。
「貴女が私のものとなることです」
 そしてまた彼女に顔を向けて答えた。その顔はマッダレーナのそれに劣らぬ程強張っていた。
「そんな・・・・・・」
 それを聞いたマッダレーナの顔が割れそうになった。ジェラールはそんな彼女に対して言葉を続けた。
「簡単なことです。一度だけ私に全てを許されればいいのです」
 それがどれだけ卑劣なことか、ジェラールはわかっていた。唾棄すべきことであった。だが彼はそれでもそれを言わざるを得なかったのだ。
「貴女は気付いておられませんか、私の想いを」
「貴方の」
「そうです。私がどれだけ貴女を想っていたか」
 ジェラールはそれまでひた隠しにしていた己の本心を遂に告白した。
「あの忌まわしい屋敷で使われていた時から貴女のことを見ていました。夕方にメヌエットのステップを学んでおられた時」
 彼は思いつめた顔で話を続けた。
「それだけではない。花園の中にいた時も。詩を読まれていた時も。私は常に貴女だけを見ていました」
 それは真実であった。彼は彼女だけを見ていたのだ。
「それは適うことがないと諦めていました。忌まわしい身分という鎖があった。だがそれは断ち切られた。それから貴女を探し続けた。そして今ここにおられる」
 彼はここで彼女に強い視線を浴びせた。
「この日が来ることをどれだけ待ち望んだか。今どうしてこの機会を逃すことができようか」
 彼女を問い詰める様にして言葉を出す。
「今ここで言いたい。何と思われようが、言われようがかまわない。貴女を私のものとしたい!」
 最後には叫んでいた。最早隠すことはできなかった。
「・・・・・・・・・」
 マッダレーナはそれを聞き沈黙していた。だがゆっくりとその口を開いた。
「わかりました」

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