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アンドレア=シェニエ
第三幕その四
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ャコバンのやり方であった。彼等は自分達に逆らう者は誰であれ許さないのだ。
 毎日多くの者が断頭台に送られる。タンヴィルは狂った様にその書類にサインをする。そして次にサインをする者の一人が彼でもあったのだ。
「何時やっても嫌な仕事だ」
 彼はこの仕事が回ってきた時常に心の中でそう呟いた。彼は血を好まなかったのだ。
「今日か明日には決まる。俺のサインで」
 ペンを手にする。そして呟いた。
「祖国の敵、実にいい言葉だ。誰もが納得する」
 書類にペンをつけた。
「コンスタンティノープル出身、士官学校にいた。格好の経歴だ。しかもジロンドに共感している。いつものパターンか。そのうえ」
 ペンを走らせる。
「詩人だ。言葉で扇動し人々を惑わせる。実にいい。ここまであって死刑にならない方がおかしい。今の時代ではな」
 ここでペンを止めた。そしてさらに呟いた。
「俺は何をやっているのだ。俺があの時屋敷を飛び出て理想を目指したのは何だったのだ」
 五年前のあの日が甦る。最早全てが懐かしい。
「父を連れて屋敷を飛び出した。そして革命に身を投じた。俺は新しい時代を切り開く自由と平等の戦士の筈だった。そう、俺は革命の子だったのだ」
 目の前に今までの光景が思い浮かぶ。ロベスピエールとの出会い、テニスコートの誓い、三部会。その全ての場面に彼はいた。そして理想を胸に戦っていた。
 だがその理想の行き着く先は何であったか。
「しかし俺はここでも下僕だった。革命に仕える下僕だ。そして革命の名の下に罪なき者を殺す。何故だ!何故こうなった!」
 彼は叫んでいた。
「殺しながらも俺は泣いている。罪なき者の血でこの手は濡れている。もう消えることはない血に濡れている」
 その手を見る。ペンも書類ももう目に入らない。
「理想とは何だったのだ。俺は自由と平等、そして博愛が支配する世界を望んでいた。だがそれは血に塗られた恐怖の世界だった。かっての王の時代よりも遥かに陰惨で血生臭い世界だった」
 多くの者が死んだ。彼は常にそれを見てきた。
「全ての人が幸福に暮らせる世界、それを目指していたというのに。俺が今いるのは悪夢と恐怖と絶望が支配する暗黒の世界だ。俺は理想とは全く逆の世界にいるのだ」
 彼は泣いていた。涙は流してはいない。だが心で血の涙を流していた。
「俺は間違えてしまった。だが後戻りは許されない。俺にはやらなければならないことがある」
 そして書類を見た。
「それは死の鎌を振り下ろすことだ。最後に俺の首に振り下ろされるその日までな」
 自分の運命を悟っていた。ジャコバン派は仲間であろうが容赦はしない。疑わしい者はすぐに消える運命なのだ。
 サインを終えた。その時だった。
「同志ジェラール」
 また扉をノックする音が聞こえてきた。

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