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イーゴリ公
第一幕その四
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扱ってはいない。違うか?」
「確かに」
 公爵もそれはわかっていた。それには素直に感謝していた。
「それはわかっている」
「戦場で貴殿と戦ってわかったのだ」
 ハーンは戦場での公爵のことを彼自身に対して述べた。
「貴殿はわしの友とするのに相応しいとな」
「そこまで私を買ってくれるのか」
「草原の民は嘘は言わぬ」
 それが彼等の誇りであった。
「決してな。勇者に対しては」
「私をまたそう呼んでくれるか」
「その勇者に対してまた言おう」
 そのうえでまた告げてきた。
「貴殿が望むものは弓でも犬でも。いや、剣も天幕も馬も」
 どれも遊牧民達にとってはまたとない宝である。
「欲しいものなら何でも。授けるぞ」
「私にそうする価値があるというのか」
「わしは草原の主だ」
 その自負は絶対のものだ。草原を支配する者は何も恐れない。昔から言われている言葉である。
「何者をも恐れず、誰もが恐れるこのわしを恐れぬ貴殿を粗末にしたことがあるか?」
「いや」
 それは決してない。だからこそすぐに答えることができた。
「貴殿は私を非常に重く扱ってくれる。それは事実だ」
「そうだな。では何が欲しい」
「帰る」
 彼が欲しいのはそれだけであった。
「私が欲するのはそれだけだ」
「ならば帰るがいい」
 何処までも寛大なハーンであった。しかしそれには約束があった。
「ただしだ」
「何だ?」
「我が行く手を遮らぬな」
 つまりは味方になれと。そういうことであった。
「ならばよいが」
「有り難い言葉だが」
 公爵にはそれを受けるわけにはいかない理由があった。それを彼に対して告げる。
「私はルーシーの者だ。だからその申し出を受けることはできない」
「わしと戦うというのだ」
「そうだ」
 堂々とハーンを見据えての言葉だった。
「私も誇り高きルーシーの貴族、その誇りにかけて嘘は言うわけにはいかない」
「それをわしに言うのだな」
「そうだ。私は自由になったなら必ず再び剣を手にし馬に乗る」
 戦場に向かうというわけだ。
「そうして軍と共に貴殿の前に姿を現わすだろう」
「見事だ」
 ハーンはその言葉を受け怒るどころか賞賛さえした。
「そうでなくてな。わしが見込んだだけはある」
「やはりそれは」
「わしは人を見る目は確かだ」
 公爵が買い被りだと言おうとしたのを察してまた告げるのだった。
「何度も言うがな。では宴に来てくれ」
「私を呼んでくれるのか」
「無論だ。では行くぞ」
 そう言って彼を招く。招いた場所ではもうポローヴェッツの娘達が待っている。ハーンはそこで自分の席に公爵を座らせた。そうして娘達の舞を見守るのだった。
 華麗な舞であった。何時しかそれに男達も加わり華麗なものに勇壮が加わる。それは
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