暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン 〜無刀の冒険者〜
GGO編
episode1 風を受けて
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知っていたから。

 だから俺は、油断しない。できない。喋りながら、笑いあいながらも、心のどこかは常に引き絞ってある。昼も夜も、仮想世界でも現実世界でも、夜寝る時でさえも……恐らく、あの日以来、ずっとだ。それが心をすり減らすことはわかっているが、それでもその心は頑なに緩んではくれない。

 そしてそれは、なにも《索敵》という技能だけでは無い。

 「……? どうしたんだい? ラッっ、しぃ……」
 「……」

 立ち止まった俺に声をかけようとしたツカサの声が、尻すぼみに消えていく。

 俺の唇に当てられた、立てられた人差し指のせいだ。
 と同時に、メンバー全員に緊張が走る。誰一人、声を上げようとはしない。

 (流石に、よく分かってる奴らだ……)

 それを確認した後、ちょっとかがんで石ころを一つ拾って。

 「っ!!!」

 手裏剣気味に、投擲した。

 向こうでは《投剣》スキルは取っていないからスキルではない(というか、そもそもこのGGOには銃とういう超強力な遠隔武器があるので、投げ武器などはいらんのだ)が、動きのイメージ自体は頭にある。完璧に、とはいかないが、普通の人間よりはマシだろう。

 運よく、放られた石は狙いに過たず命中した。

 「……鏡、ですね。向きからして、外から中を覗く為、ですか」

 小声でミオンが呟く。
 入口の岩陰におかれた、ミラー。

 スモークの効いたその鏡アイテムは、転がっていても大多数のプレイヤーは気付けない(まあ、残念と言うか無念と言うか、俺は大多数には含まれないが)だろうが、注意してみれば反射によって向こう側の風景を見通すことさえ可能だ。つまりは、「設置した本人達なら、双眼鏡系アイテムで洞窟内を覗う」などという偵察も可能となる。

 要するに。

 「さ、どうすっかね。待ち伏せられてるぜ、司令?」

 今日の狩りの〆には、随分と大物がかかったということだった。


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