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イーゴリ公
プロローグその二
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プロローグその二

「いよいよ。戦場に向かうのでな」
「それでは御願いです」
 彼等はその言葉を受けてまた公爵に言う。
「宜しいでしょうか」
「聞こう。何だ」
 公爵は馬上から彼等に問うた。その姿はまるでイコンにある聖人の様に神々しいものであった。
「是非共今度の敵も」
「倒して下さい」
 彼等は言うのだった。
「これまでのように」
「宜しいでしょうか」
「無論だ」
 彼等に対する返事は自信に満ちたものであった。
「だからこそ私は今から戦場に向かうのだ」
「何と」
「そう言って下さるとは」
 それだけで彼等は頼もしくなる。今公爵の後ろに着飾り馬に乗った諸侯達が続く。公爵程ではないが彼等も見事な武装であった。
「では諸侯よ」
 公爵はその彼等に声をかけた。
「いざ。敵を討ちに」
「勝利を手に」
「ルーシーに栄光を」
 彼等は公爵に対して応える。そうして居間城門を出たのであった。
 その時だった。不意に辺りが暗くなった。皆そのことに顔を顰めさせる。
「これは一体」
「何事か」
「父上」
 ここで端整な白馬に乗った青年が公爵の横に来た。武装している彼こそがイーゴリの嫡子であるウラジミールであった。公爵と今はもう世を去った先妻との間の子である。
「あれを御覧下さい」
「むっ」
 公爵は我が子があげた手の先を見た。見ればそこには太陽がある。だが太陽は少しずつ隠れようとしていた。皆既日食であった。
「太陽が隠れていく」
「何と不吉な」
 農民達も兵士達もそれを見て顔を強張らせる。当時日食はあまりにも不吉なこととされていたのだ。
「これは予兆なのか」
「滅多なことを言うな」
 諸侯達も動揺していた。それで顔を見合わせて話をしていた。
「まさかそのような」
「有り得ないことだ」
「だが見よ」
 しかし諸侯の一人が言う。辺りは完全に真っ暗になってしまっていた。
「最早夜だ。さっきまでの太陽は」
「不吉なのか、やはり」
「いや」
 だが公爵は彼等の言葉にも動じていなかった。もう姿を隠してしまった太陽を見ながら毅然として言うのであった。
「それは己で確かめるもの。今は決戦の時、どうして戦わずに逃げられようか」
「それはそうですが」
「しかし」
 公爵の言葉を聞いても他の者の心の動揺は晴れはしなかった。
「これはやはり」
「不吉な」
 そう話していると。すぐに日食は終わった。そうして辺りはまた明るくなった。
「光が戻った」
「それもすぐに」
「こういうことだ」
 公爵はまたしても毅然として言うのだった。
「光は必ず戻る。だからこそ行くのだ」
「左様ですか」
「それでは」
「いざ、戦場へ」
 公爵は全軍に告げる。諸侯も兵士達もそれに従い前に出る。だがその中で
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