第八章 望郷の小夜曲
第八話 月下の口づけ
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士郎の腕の中で山のようにそびえるゴーレムを見上げ、未だにギャーギャーと騒ぎ声を上げるロングビルの声を耳にしたポツリとルイズが呟いた。
泥の霧が晴れ、空から冴え冴えした月明かりが破壊され尽くした森を照らし出す。
既に敵はいない筈なのに、未だに森の中は悲鳴や怒声、笑い声で騒がしい。
泥の霧で薄汚れた姿になったルイズが呆然とした顔で、まだまだ騒がしい森を眺めていたが身体に回された士郎の手に力が入ったのを感じ、ゆっくりと顔を上に向けた。
そこには同じく泥で汚れた士郎の顔があった。
後光のように月の光を背に受けた士郎の顔は、ルイズの目にはハッキリと映らない。
ボヤけて滲んでよく見えない顔をよく見ようと、士郎の首に手を伸ばし顔を近づける。
どんどんと士郎の顔が近づくが、ボヤけて滲むのは変わらない。
何時の間にか、ルイズは涙を流していた。
後から後から溢れ出る涙で、士郎の顔がボヤけ、滲んでいる。
それは士郎との距離がゼロになっても変わらない。
閉じた目尻から大粒の涙が溢れ出る。
そっと唇に、夢見るほど求めていた感触を感じる。
感触は一瞬。
ゆっくりと離れる唇に縋るようにそっと目を開いたルイズの目と士郎の目が交差する。
柔らかな優しい笑みを浮かべる士郎に、ルイズは照れたように真っ赤になった顔を逸らすと、照れを隠すようにポツリと声を漏らした。
「ま、全く、こ、こんな所でキスするなんて、ムードも何もあったもんじゃないじゃない」
顔を背けながら、非難の声を上げるルイズだが、その声には隠しきれない喜色が混じっていた。
「だが、悪くはないだろ?」
笑い混じりの士郎の問いに、ルイズは桃色に染まる頬を緩ませる。
破壊尽くされた森の中。
空高く降り注ぐ月光と悲怒交々の声を全身に受けながら、笑みを浮かべた士郎とルイズはもう一度―――
「―――否定はしないわ」
―――キスを交わした。
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