第八章 望郷の小夜曲
第八話 月下の口づけ
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ズが、どんどんと近づいてくるゴーレムの姿を見て首を傾げる。
「……ワルドが吹っ飛んで来たのはあれのせいか……まったくマチルダの奴無茶をして」
「え、マチルダ? ……マチルダって誰のことよ」
士郎はゴーレムの肩の上で笑い声を上げるロングビルの姿を見て、呆れた顔で知らず声を漏らした声が近くで地面に伏せたルイズの耳に入った。
「あ〜……ロングビルのことだ」
背後の地面から責めるような声を受けた士郎が苦い顔で答えると、未だ激しく揺れている地面に立ち上がり詰め寄ってくる。
「ミス・ロングビル? 何でミス・ロングビルをマチルダって言うのよ。どういうこと……って! あのゴーレムに乗ってるのってミス・ロングビルなのっ!? じゃあ、あれを作ったのは……」
「どうやらあのゴーレムでワルドをここまで吹っ飛ばしたみたいだな」
「ミス・ロングビルが? 何で分かるのよ」
「……聞けば分かるだろ」
ルイズの問いに、士郎はゴーレムの肩を指差す。
士郎が指差すゴーレムの肩の上からは、ロングビルの引きつった笑い声に混じり、子供なら聞いただけで泣き出しそうな声が聞こえてくる。
人の声というよりも悪魔のような声を上げるロングビルの様子に、地面に揺れる度に身体を上下に揺らしながらルイズが引きつった声で呟く。
「……あ〜……確かに……あれって本当にミス・ロングビルなの」
「……多分」
ルイズの言葉に士郎は自信なさげに頷く。
呆然と立ち尽くす士郎たちの前で、巨大なゴーレムが地響きを立て立ち止まった。
急激に止まったことから、巨大なゴーレムの足が巻き上げた大量の土砂がまるで津波のように持ち上がる。
士郎は咄嗟にルイズの身体を抱えると、迫る泥の津波から飛び離れた。
「ど〜こ〜だ〜っ!! まだだよ! まだ足りないよ! わたしのこのイライラを収めるにはまだまだ足りないんだよっ! 何処に行ったんだいこの野郎ッ!!」
「も、もう、だめ、だ……め、死んじゃう……死んじゃ……う、わ」
「あは、あはは、アハハハ……は、はは……はぁ〜……はは……うっ吐きそ」
立ち止まったゴーレムの肩の上から悲怒交々の声が落ちてくる。
ゴーレムが巻き上げた大量の土砂で霧が掛かったようになり、唯一の明かりである月明かりを遮り、視界は完全に闇に沈んでしまっていた。
「はぁ……しまった逃げられたか」
「………………えっ、あ、に、逃げられた?」
士郎はルイズをお姫様抱っこした姿でぐるりと顔を見回すと、小さく溜め息を吐いた。ルイズは士郎に縋り付いた姿でぽ〜っとしていたが、「逃げられた」という言葉が耳に入ると、ハッと顔を上げた。
「どうやら、この騒ぎに紛れて逃げたようだな」
「……何と言うか……色々と酷いわね」
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