第八章 望郷の小夜曲
第八話 月下の口づけ
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シエスタの記憶では、ハッキリとロングビルの様子が変わったのは、士郎が七万の軍勢と戦ったという草原を丘の上から見下ろした時からであった。あの時、ロングビルは夕焼けに燃
える草原ではなく、丘の横に見える、今いるこの森を見ていた。ウエストウッド村がある森がそこだと聞き、士郎と会えるから様子が変わったのかなと考えていたのだけれど……。
でも……それにしては、嬉しそうな顔をしてはいなかったような。
丘の上から森を見下ろしていたあの時、ロングビルはとても複雑そうな顔をしていた。
嬉しそうで……悲しそうで……怒っているようで……泣いているようで……とても複雑な顔を。
どれだけ考えても、答えが出るわけがなく。ぐるぐるとまとまらない思考を回しながら、大きく溜め息をつくと共にテントを張り終えたシエスタは、寝転がるルイズたちを運ぼうと顔を向けると、そこには、
「あっ……」
まるで母親のような優しい笑みを浮かべたロングビルが、ルイズたちの頭を優しく撫でていた。
先程までの呆けたような顔ではなく、そこには遊び疲れて眠りこける我が子を見る母親のような顔であった。
優しく、起こさないようにそっと撫でるその手に危うさはなく。手慣れているような様子すら見えた。
「……本当に……分かんないなぁ」
ポツリと呟いたシエスタは、そっと目を瞑るとロングビルのことを思う。
……ミス・ロングビル。
―――学院長の秘書。
―――メガネが良く似合う緑髪の美女。
あれ……そう言えば彼女のこと、わたしってまだ全然知らないんだ。
「いつか……教えてくれるかな」
戦争が終わった後、学院で士郎の帰りを待っていたわたしの下に届いたのは、士郎が戦場で行方不明になったというものだった。士郎が生死不明と聞き、わたしが何もしない筈もなく、直ぐに裏表問わず情報収集を始めたが、結果は芳しいものではなく。手に入った撤退戦の情報といえば、真偽不明のものばかりであり、これだというものは……一つしかなかった。
あの戦争の終盤。連合軍の撤退は、ロサイスから逃げ出す前にアルビオン軍は追いつくはずであったが、結果は無事ロサイスから脱出することに成功というものだった。しかし、奇跡のようなその結果の原因については、裏表共に様々な情報が交錯しておりハッキリとしないものであった。
表―――軍に聞くところによれば、アルビオン軍に何らかの問題が発生し、進行に支障をきたしたと言うものであった。だが、そのアルビオン軍に発生した問題について、軍は明確な
答えは出していない。
裏―――情報屋に聞くところによれば、反乱軍を加えた七万の軍は、何者かによってその進行を止められたというも
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