第一章 土くれのフーケ
第八話 士郎の使い魔としての一日
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はしている」
ゆっくりと、自らの肉体を誇示しながらキュルケが歩み寄る。ロウソクの淡い光を受けた薄いベビードールの奥が、見えそうで見えない。女らしい豊満な肉体からなる陰影が、男の欲情を大きく揺さぶる。
「―――そう『微熱』。あたしの二つ名の『微熱』はね、情熱のことなのよ! その情熱がギーシュを倒したあなたを見た瞬間燃え上がったのよ! それからだわ、あなたが毎晩あたしの夢に出てくるものだから……もう、我慢が出来ないのよ……」
そう言って士郎に顔を近づけてくるキュルケを―――しかし、士郎はその両肩をそっと両手で押し戻した。
「その、だな。気持ちは嬉しいんだが」
「いいえ! 待てないわ! この胸の高鳴り! これは恋よ! シロウ好きよ!」
何とか押さえ込もうとした士郎の手を振り払い、抱きつこうとしたキュルケの頭に士郎は右手を置き、残った左手で頬をかきながら言った。
「キュルケ、君の気持ちは嬉しいが……答えることはできない」
「どうして? 私のことが嫌いなの?」
キュルケは士郎の答えを聞き、上目遣いで士郎を見上げた。
男のツボを的確に捕らえる計算しつくされた上目遣いだ。そこらの中年ならば、これ一つで十万は硬いだろう。
「そうだな、いろいろ理由はあるが。まあ、一番の理由は君が俺を好きじゃない、と言うところか」
「えっ? 好きじゃ、ない?」
その言葉を聞きキュルケは不思議な顔をした。
「あたしがシロウを好きじゃないって? 好きだって言ったわよね?」
「ああ、だがその『好き』は、恋の『好き』とは違うな」
「恋の『好き』とは違う……?」
「そうだ」
「そ、そんなこと……」
士郎の言葉に焦るキュルケを見て士郎は苦笑いをした。
「まあ、これで納得してくれと言うのは無理と承知なんだが……そうだな、今日はこのくらいで勘弁してくれないか」
「あっ……」
士郎はキュルケの頭の上に置いた手でキュルケの髪を優しく上げ、額を露出させるとそこに軽く口づけした。
「ふわっ」
キュルケが驚きの声を上げると、士郎は軽く笑って頭を優しく叩き、ドアに向かって歩き出す。
そんな去ってゆく士郎の背中を、キュルケは惚けた顔で黙って見送っている。
ドアが閉まり切る直前、背中を向けたまま、士郎は笑みを含んだ声でキュルケに声をかけた。
「―――キュルケ……君はなかなか可愛らしい声で鳴くんだな」
「なっ―――ッ!?」
キュルケが驚きの声を上げた時には、既に士郎の姿はドアの向こうにあった。
それを見たキュルケは、士郎が口づけした場所に手をやりながら不満気に文句を口にする。
「……な、何よ……馬鹿にして」
……褐色の肌を真っ赤に染め上げながら。
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