マザーズ・ロザリオ編
過去編
過去編―西暦2020 年春夏―
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フルと頭を振る。
ざわついた、あるはずのないあの感情を気のせいだと自分を諫めるために、木綿季の笑顔に感じた《違和感》をぬぐいさるために。
(……何を馬鹿な事を)
普段のその笑みが、まるで―――、
「……やれやれ」
家族だった者達の口癖が未だに抜けないことに少し辟易しつつ、木綿季の後ろに忍び寄る。
特に意味はない。
……何となく、悪戯をしてみたくなったのだ。
30cm程離れて立ち、後ろから突然鼻を摘む。
「ふがぁっ!?」
「何語だ?日本語話せ」
「ふぁ、ふぁなひて〜」
訳、『離せ』的な。
手を離してそのままコツンと頭を叩く。
「……あんまり遠く行くな。探すのが大変だ」
「うぅ……。ごめん」
シュンとなる木綿季にまた胸の中で波がたつが、それも無視して視線を風鈴に向ける。木綿季の視線が集中していたのは、隅のやや小さめの風鈴。
これからの季節に相応しい『アサガオ』の風鈴だ。御値段ウン千円也。
(流石に、きつい……)
名残惜しそうにそれを見詰める木綿季を促し、俺達はその場を離れた。
夕暮れ時、あちこちで散々遊び迂闊にも夢中になってしまったため、辺りは段々と暗くなって来ている。それでも暗くなりきる迄に木綿季を家まで送り届け、夕食への招待を丁重に断って自分の家路に就いた。
距離的には100メートルも離れていないが、何の特徴もないその家に着いた頃には辺りは闇に沈んでいた。
「……………」
黙って戸を開けて中に入り、そのまま居間の明かりを点けてテーブル上の書き置きに目を通す。いつも通りの内容をさほど真面目に見もせずにゴミ箱にほおり込む。
ヤカンでお湯を沸かしている間に風呂桶に湯を張り、インスタントと冷凍食品で夕食を済まし、風呂に入る。体に染み付いたルーチンをこなし、布団に入るとまだ時刻は8時だった。
昼間が賑やかだったせいか、何時もの通りすぐ就寝とはいかなかった。
「似合わない事を……」
胸の奥のしこり、それが寂しさだと知っているからこそ呟かずにはいられなかった。
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7月。
夏休みも間近とあり、放課後のクラスは湧いていた。少数の来年中学受験をするクラスメートは夏にも関わらず青い顔をしながら何やら小難しいテキストを開いている。
(……ご苦労な事だな)
螢はその陰と陽のクラスの雰囲気のどちらに混じる事なく、ただ窓から覗く雲を眺めていた。今日は晴れ後曇り、または雨だそうだ。
「傘、持ってないな……」
面倒がって持ってこなかったのが、何とも悔やまれる。
教室に人気が無く
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