崑崙の章
第3話 「治療できないからです! 少し黙って!」
[4/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
た野次馬の中から、宿の女将さんが手伝いを申し出る。
「アンタもいい年なんだからそれぐらい我慢しな! こんなの子供産むのに比べりゃ全然痛くないだろ!」
「もごーーーっ! もご、もごっ、もごも!」
「何言ってんだかわかんないよ!」
女将さんがはっぱを掛けながら足を押さえる。
ありがたい。
こういうときにどっしりと声を掛ける人の存在は、患者とって何よりの力だ。
「傷のなかに泥や石はなし……」
暴れたことで流れ出る血を丹念に拭き、体の内部の出血は先程作った生理食塩水で洗い流す。
このままでは傷口が小さすぎて血管を出せないため、火で消毒した小刀で傷を少しだけ大きくする。
「ど、どうして斬るのですか!?」
「治療できないからです! 少し黙って!」
「もごっ……!」
背中の傷を少しだけ開く。もちろん血管や筋肉などには傷をつけない様にだ。
背中の筋肉を優しく素手で掻き分け、出血の原因である太い血管を見つける。
筋肉や血管が断裂しているわけではなさそうだ。
しかも出血場所は一箇所だけ……運がいい。
縦に裂けた血管から血が流れないように、血管の上下を糸で縛る。
血を生理食塩水で洗い流して……針で縫合する。
急がないと壊死してしまうから、時間は掛けられない。
「もー! もごーっ! もごぉっ……!」
「まさか研修で行かされたラムディのじいさんに、無理やり覚えこまされた医療術がこんなところで役立つとはな……」
思わず呟く。
『神を宿す手を持つ男』スプリガン屈指の殺し屋であり、世界一のドクターでもある男、パーカップ・ラムディ。
彼のところで一刀と共に働かされた二ヶ月は、すさまじく実践的で。
どこかの無免許医並に手術もやらされた。
「十代の若者に何十という外科手術させる違法医師なんて、いねーよ……ったく!」
まあ、そのおかげで多少の怪我なら、自分で簡単に処置できるようになったんだが。
血管を縫合するときは……繊細かつ大胆に! そしてしっかりと絞る!
でないと、縫合部位から漏れるからね。
「何ブツブツ言ってるんだい?」
「なんでもありません……よっと。よし、出血は……ないな。縫合します」
結索していた糸を解いて血を流して出血の有無を確認。
出血がないことを確認して、生理食塩水で傷口を洗う。
本当は完全密封した生理食塩水が欲しいところだが……そんな便利なものはない。
「さてと……まだ痛みますよ。しっかり身体を押さえて置いてください」
何しろ今度は表皮を縫合するんだ……しかも埋没法で。
麻酔なしだと、めっちゃ痛いぞ、これ。
「では……」
「もごっ!」
「出して……」
「もごっ!?」
「また刺して…
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ