第8話 次は北の森だそうですよ?
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しゃらん。
再び、鈴の音色が響いた。先ほどよりも強く。先ほどよりも涼やかに。
そして、その音色に重なる少女たちの声。
しかし、周囲を取り巻く人物たちに語り掛けようとした瞬間、ヒューヒューと言う風の音が発するだけで声が出せない事に気付く。
「兄ちゃん、未だ身体を動かすんやないで」
そんな、リューヴェルトの様子に気付いたのか、妙なイントネーションで話し掛けて来る少女の声。ただ、言葉の聞こえて来る感覚から判断して、今、この声に重なるように聞こえる唱和を続ける少女たちとは別の人間。但し、かなり近い位置に存在しているはずの人間大の存在を感知する事が、リューヴェルトには出来なかったのだが。
そう。多少、身体に力が入るようになって来たが、それでも未だ瞳を開く事は叶わず、周囲の雰囲気を察する事で、辛うじて数人の人間に囲まれて居る事が判るだけで有ったのだ。
「兄ちゃんは、この森の妖樹ども。冬虫夏草の苗床にされそうに成ったんや。身体中から、穢れをすべて祓うまでは動かん方がええで」
再び、先ほどの少女の声が聞こえた。
成るほど、あの時に大量の蟲に襲われて、身体が麻痺。そのまま死の森に落下して……。
三度鳴らされる鈴の音。
そして、その涼やかなる音色に重なる祝詞。
意識がはっきりした瞬間、現在の状況の異常さに気付く。
ここは人を誘い込み二度と外には出す事のない魔境。死の森と呼ばれる森の中に複数の人間が存在している状態。この状態を異常と言わずして……。
そこまで考えた後、少し冷静になって考えを改めるリューヴェルト。
そう。あのギアスロールを受け取ったのが、自分一人とは限らないと言う事に気付いたのだ。
「わたしの名前は、リューヴェルト。コミュニティ翼使竜のリーダーを務めて居ます」
ぼんやりとでは有るが、周囲の様子が判り始めたリューヴェルトが、そう、話し掛けた。
既に、少女たちの唱えていた呪文は終了して居り、うっすらと開いたリューヴェルトの青い瞳には、自分の事を心配げに覗き込む二人の巫女服姿の少女と、その傍らに立つ、東洋……。古代の中国風の衣装に身を包んだスレンダーな美女。
そして、もう一匹。これまた、仰向けに成った状態で深い緑の天蓋を見上げている彼の事を覗き込んでいる白猫の姿が映ったのだった。
☆★☆★☆
彼女は待ち続けた。
奇妙な形に歪んだ大木の根本に横たわり、湾曲して見える蒼穹を見上げ……。
あの日、あの夜に交わした約束を思い出しながら。
そう。あの日と同じ不思議な雰囲気の漂う世界の中心に、あの人が訪れてくれるその日を。
そして……。
そして、彼女は、今夜がその夜になる事を望みながら……。
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