第8話 次は北の森だそうですよ?
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完全に緑に覆われた天蓋の中、リューヴェルトは全速力で走り抜けて居た。
枝から枝を渡り、うっそうと生い茂った下草を切り開き、太い幹を足場としながら。
そして、同時に感じて居た。まるで、うなじの産毛だけが逆立つような……。絶対に、後ろを振り返って確認してはならないような……。そんな、自らの背に追いすがる人ならざるモノの気配を……。
緑の天蓋。その上には、既に春の朧月に照らされた平和な夜が広がって居るはずの時間帯。しかし、ここ……。異常に伸びた木々の枝や葉。そして、春の華に遮られたこの闇の底には、一切の光が差し込む事のない深い闇に覆われた地が形作られる。
そう。ここは濃密な華の香りに満たされた、しかし、暗い夜の迷宮。
………………。
いや、違う。目的の地点に向かいながらも、リューヴェルトは、そう考えた後に首を横に振る。
そう。単に人の手が入らなくなっただけで、ここまでの異常な世界が造り上げられる訳はない。
これは、何らかの悪しき力の働いた結果、造り出された魔境。
あの森の中で出会った少女たちが語った内容と、契約書類に記された……。
ザザッ、ザザッ、ザザザザザザ。
刹那。森の木々が、そして華たちがざわめいた。それにつられるように、世界自体が歪む。
そう。その瞬間、形作られていた闇のトンネルが形を変えたのだ。
そして、同時に放たれる枝と、地を這う根。
枝はリューヴェルトを貫き、穿とうと試み、根は足に絡み付き転倒を狙う。
いや、大量に降らされる葉。そして、春に相応しい可憐な花びらすらも、彼を取り巻き、息を阻害し、そして、隙あらば、その生命を吸い尽くしてやろうと企てているかのように、今のリューヴェルトには感じられる。
濃密な華の香り。闇に白く輝くは白木蓮。この強い香りも、そして、リューヴェルトと言う存在自体を白く塗り潰そうとする花びらの正体もそれ
そう。そして、彼が進むべき道が、深い緑と、節くれだった幹によって、今完全に閉ざされて仕舞う。
しかし、だからと言って、羽根を広げ、蒼穹を行く訳には行かない。
何故ならば……。
☆★☆★☆
少女は浅い眠りの中で夢を見ていた。
産まれてから多くの物を見て来た……。多くのモノたちと出会って来たその瞳は、今は未だ開く事がない。
そう、失われた過去に。未だ訪れていない未来に。そして、次元の狭間で。
出会いは数知れず。そして、同じ数だけの別れも繰り返す。
しかし、交わした約束はひとつ。守りたい。いや、守って欲しい約束はひとつ。
そうして……。
☆★☆★☆
見上げると、其処には雲ひとつない青空。
世界を支配する光は、
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