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ドン=ジョヴァンニ
第二幕その十六
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第二幕その十六

「そういったものがなくて何が人生なのだ」
「う、うわあっ!」
「何だあれは!」
 今度は部屋にいた召使達と楽師達が蒼ざめた声をあげて必死に逃げた。そしてエルヴィーラも後ろを振り向いて蒼白になった。
「まさか。そんな」
 そして後ずさりしてそのうえで。彼女も去るのだった。
「あのエルヴィーラさんが逃げ去った!?」
「確かにな」
 レポレロとジョヴァンニは今の彼女を見て述べた。
「あの人が逃げ去るなんて」
「何が起こったのだ?」
「う、うわ・・・・・・」
 次の瞬間にはレポレロも蒼白になって声を震わせた。
「本当に来た・・・・・・」
「何が来たのだ?」
「旦那、悪いことは言いません」
 その蒼白の顔でかつ必死になってジョヴァンニに告げるのだった。
「今すぐここから逃げるべきですよ」
「逃げるだと?何からだ?」
「だから来たんですよ」
 前を見据えて蛇に睨まれた蛙の顔になっていた。
「あの方が」
「ふむ。あれは」
 ここでジョヴァンニは部屋の扉の方を見た。そこから出て来たのは。
「ドン=ジョヴァンニよ」
「ふむ、来たか」
「宴に招かれたので来た」
「き、来た!」
 遂に飛び上がったレポレロだった。
「もうこれで。逃げられない!」
 これで彼は逃げ出そうとするができなかった。仕方なくテーブルの下に逃げ込む。それで必死に難を逃れようとするのであった。
 これで二人だけになった。ジョヴァンニと騎士長は部屋で対峙した。ジョヴァンニは己の席に座っており騎士長は立っている。互いに見やっている。
「さて、それではだ」
「うむ」
「まずは来てくれて何よりだ」
 ジョヴァンニは騎士長を見据えたまま言うのだった。
「それではだ。レポレロ」
「いえ、いませんよ」
 レポレロはここでは必死に自分がいないものとしようとした。
「いませんよ、何処にも」
「馬鹿を言え」
 だがそんな言い逃れが通用する状況ではなかった。ジョヴァンニに無理矢理テーブルの下から引き出されるのであった。
「そんなことができるものか」
「できるものかって」
「出るのだ」
 丁度ジョヴァンニの傍にいたので座ったままの彼に右手で引き摺り出された。
「そして食事をもう一人前だ」
「あの、誰もいませんけれど」
「だから御前が持って来るのだ」
 何を言っている、といった態度であった。
「すぐにな。いいな」
「わ、わかりました」
「待つのだ」
 だが騎士長は行きかけたそのレポレロを呼び止めるのだった。
「私には必要がない」
「そりゃまたどうしてですか?」
「私は天上の食べ物を食べる者だ」
 だからだというのである。
「地上のものはいらぬ」
「いらないんですか」
「それとは別の重大な考えと
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