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ドン=ジョヴァンニ
第二幕その十五

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第二幕その十五

 そしてそのうえで彼は。曲が変わったのを聴いて言うのだった。
「これはあれだったな」
「そうです、フィガロの結婚です」
 そのオペラの曲なのだった。
「それのアリアですね」
「もう飛ぶまいこの蝶々か」
 その曲だとわかっているのだった。
「いい曲だな」
「この曲を作った人は天才ですね」
「その通りだ。永遠に名前が残るな」
 ここまで褒めるモーツァルトだった。
「それで」
「はい」
「ところでだ」
 ここでジョヴァンニは口一杯に頬張るレポレロに対して意地悪を仕掛けてきた。
「今口笛を吹けるか?」
「えっ、口笛をですか」
「そうだ。吹けるか?」
 美酒を楽しみながら相手を横目に見つつ問うのだった。
「今吹けるか」
「いえ、それは」
 それを尋ねられてしどろもどろになるレポレロであった。
「ちょっと」
「できないのか」
「あのですね」
 言い訳がましい様子にもなる。
「あたしはですね」
「できないのか」
「すいません、ちょっと」
「ふん、まあいい」
 わかっていて仕掛けているからここで止めてやるのだった。
「それではな」
「やっぱりここにいたのね」
 ジョヴァンニが意地悪を止めたところで。またエルヴィーラが彼のところに駆け込んできたのだった。レポレロはぎょっとなっているがやはりジョヴァンニは平気である。
「ここに」
「今度は何の用だ?」
「私の愛の最後の試練を」
 エルヴィーラは思い詰めた顔でジョヴァンニに告げるのだった。
「貴方と試したい為にここに来たわ」
「またそのことか」
「貴方の嘘と偽りは忘れます」
 それも流すとまで告げた。
「ですから」
「ですから。何だ?」
「貴方と共に」
 こうも彼に告げるのだった。
「永遠に」
「それで私に何を望むというのだ?」
 ジョヴァンニは彼女が己に何かを求めているのを察していた。そうしてそのうえで問うたのである。
「何をだ?一体」
「生活を変えて」
 彼女の願いはそれであった。
「是非。もう今の様な生活は」
「それは無理だな」
 ジョヴァンニは表情を変えずに答えた。
「絶対にな」
「そうやって何時か天罰を受けるというの!?」
「神なぞいはしない」
 ジョヴァンニはエルヴィーラの忠告を無視した。
「そんなものはな」
「旦那もそこまでやるのかね」
 レポレロは感心しながらも呆れてもいた。
「全く。ここまできたら意固地ってやつだよ」
「快楽あっての人生だ」
 そしてジョヴァンニは言うのだった。
「美酒と飽食あっての人生だ」
「その考えが駄目なのよ」
「そして何よりも美女だ」
 エルヴィーラの必死の言葉も聞いてはいない。

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