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番外編
青騎士伝説 後編
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下すように、影が近づく。

 「毒ナイフが効かないのは何故です? HPバーが表示されないのは何故です? 確率発生の異常効果があまりにも発動しないのは何故です? どれもこれも、その《ミスティルテイン》のように君の装備するアイテムの持つ特殊効果なのではないのですか?」

 硬直終了直後に大きく槍を横薙ぎに振り回す。だがそれを、黒い影はストンと沈んで回避し、続けざまにナイフを振う。その腰から抜き放たれた新たな投げナイフが零距離で放たれ、鎧と具足の隙間に突き刺さり、衝撃に耐えきれずついに『青騎士』が地面に手を付く。

 「降参してください。君がここで負けを認めてくれればウィナー表示がされて、あの三人の少女が証人となってくれます。「『青騎士』が、PoHの率いるギルド『墓荒しの蝙蝠』に敗れた」と。そうすれば宣伝効果は十分です。君がギルドのアイテムを差し出し、二度と『青騎士』にならないならば命は見逃してあげてもいいのですよ?」

 ここまでの道中、頭の中に響く弱気な声、耳障りな敵の誘惑、そして体に突き刺さった無数のナイフ。幾重にも張り巡らされた罠と精神攻撃は、並みのプレイヤーなら到底耐えられるものではないだろう。『攻略組』ですら、耐えられる者は数えるほどかもしれない。

 「……」

 しかしそんなことはもう、彼には関係無かった。
 そもそもファーには、彼の声なんてまともに聞こえていなかった。

 「……」

 彼が仇である「PoH」ではないことも。
 自分が圧倒的に劣勢であることも。
 諦めれば助かるだろうことも。

 彼にはもう何の意味も持たなかった。

 「……」

 自分だけに見えるHPゲージは、もう赤に染まる寸前だ。目に痛い危険域のイエローと、目の前の男のオレンジのカーソルが、もう消えかかった彼の視界に映る。だが、それでも逃げ出さない。微塵も慌てる様子は無い。弱音を吐きも、逆に強がりを言いもしない。

 彼にとって意味があったのは、もはやただ一つ。

 (決して、怯まない……屈しない……負けない……)

 ゆっくりと立ち上がる。なおも突き立てられるナイフに何の興味も示さず、槍を握りしめて立ち上がる。覗く右のスリットの奥、瞳の中に宿る輝きは、揺るぎない闘志。決して折れない、強い意志を秘めた、戦士の目。

 『青騎士』らしく。
 たとえ死に逝くときでさえ、決して怯まず戦い抜く、不屈の騎士。

 ―――自分は、『青騎士』なのだ。
 ―――『青騎士』に、なるのだ。
 ―――二度と仲間を失わない強さを持った、戦士になるのだ。

 もはや暗示、催眠の域に達した想いは、彼を本物の騎士として何度でも立ち上がらせた。





 豪雨の中の戦闘を見守るのは、囚われた三人の少女だけではなか
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