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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の3:二つの戦い
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装を掻き集める者、森の奥地に避難する者。冬を前にした寒々とした空気が流れる中、イル=フードは人々の早足とは対照的に、ゆっくりと森を歩いていく。
 半ば他人事のように力の無い視線を左右にやりながら、彼は己の人生というのを振り返っていた。弁舌さわやかな男子として森の老人から担がれた青春期を。舌鋒鋭き革命家であった壮年期を。そして、誰からも信用されなくなった今の自分を。

(・・・ニ=ベリ。どうやら私の政はこれまでのようだ)

 言葉だけでは政治は興せない。あれは王国からの調停団を迎え入れて少し経った日の事であった。自らの村へと帰還する前に、ニ=ベリが零した言葉であった。

『イルよ。お前もそろそろ自覚している筈だ。お前の言葉を信じる者が減ってきていると』『それは間違いだ。私の言葉はまだ誰に対しても通用する。皆の心の支えとなる言葉は、全て私の口から出るのだ』
『それは平和な時代であってこそ言えた話だ。今を見ろ。地方では同朋との間で殺し合いが起き、平穏な森の中でも、皆が不安を抱えている。こんな時に頼りになるのは現実を見ないお前の言葉ではない。確固とした力こそ、人々を繋げるのだ』
『暴論を言うな。私を見縊ってもらっては困るぞ。私ならばこの森をうまく統治できる』
『人間とドワーフに脅されている状況でよくもまぁ言えたものだ。援助を受けているのだろう?バレてないとでも思ったか?』
『っ・・・村に戻れ、ニ=ベリ。せいぜい農民達を治めているがいい』
『・・・次にお前に会うのは、お前が自分の無力さを全て知った時だろうな。その時にお前にも分かる。言葉だけでは政治を興せない。最後に頼りになるのは力だとな』
「結局、言葉ではどうにもならんかったな」

 自らの失政を完全に確信したのは、必要のない討伐隊を西へ派遣した事だ。あれに至るまでに、内戦間近の雰囲気となっているエルフの森を統括するのに苦戦しており、支持者は昔日よりも少なかった。しかし憎々しき援助者の命令とはいえ、あれを実行したせいで食料の収穫も思うようにいかず、熱狂者以外からそっぽを向かれてしまったのは事実であった。
 背筋がぴんとした衛兵の間を通り、木で出来た四・五段ほどの階段を登り、イルは目的の家へと上がり込む。中は入口以外が全て暗幕で覆われていて、奥の祭壇らしき場所に蝋燭が燈るだけであった。三歩歩いた所で跪き、頭を深々と垂れる。
 一分ほど待っていると、祭壇の方から女性の声が聞こえる。喉に力が入っていない、すぐに消え入りそうなものであった。言葉遣いだけが成長しており、声そのものは年端もいかない女子のものである。

「そこに居るのは、イルですか」
「はい、巫女様。此処に。・・・申し訳御座いません、巫女様。私の力量如きではエルフの統治はおろか、盗賊の侵攻すら防げませんでした」
「手は尽く
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