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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の3:二つの戦い
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ら地面を滑る。巻き上がる土煙を被る者はいたが、幸いにも潰される兵士はいなかった。蠢く巨体の背中の上で熊美は転がっていき、尻尾の付け根あたりから地上へと落下した。衝撃で肺から空気が抜けてしまい咳き込んでしまう。その頭の上を竜巻のように尻尾が通過していく。どれをとっても致命傷を通り越して即死級の龍のじたばたは、大地を大いに揺るがし、兵士等を遠ざけた。
 やがて龍は大砲を嫌うかのように再び空へと飛び始める。追い打ちとばかりに矢の斉射が振りかかって腹の大きな傷口に突き刺さった。龍はじろりと地上の人々を睨むと、血を垂らしながら北の空へと向かっていく。強い風を受けながら兵士等は、勝利の雄叫びを上げた。嵐の様に舞い降りた龍は、まさに嵐の様に去っていった。いや、人間の知恵によって撃退したのであった。
 その第一の功労者である熊美に向かって、オルヴァを先頭として無事であった者達が集っていく。その類稀なる勇気に感極まった様子であった。

「み、見事だったぞ、クマミ・・・まさかあの蜥蜴を撃退するとは」
「流石団長です!俺、感動しました!」「我らの英雄よ!」「凄いです、団長!」
「ああ・・・中々骨が折れたが、撃退出来て本当に良かった・・・。お前ら、何時までも私に構うな。早く負傷者を救助しろ!」

 熊美の一声と共に兵士等が方々に散っていく。龍の攻撃は甚大な被害を齎していた。負傷兵が次々と集められて早急な治療を施されていく。その傍らでは、二度と目を開かなくなってしまった戦友らを、或は彼らの無事なパーツを集めるため兵士等は奔走する。僅かな時間での攻防であったが、王国軍は大打撃を蒙ってしまった。 
 龍が飛んでいった空へと視線をやっていると、熊美は鋭敏となっている視覚で奇妙なものを捉えた。徐々に小さくなっていく鉄色の龍に、何か大きな影が交錯したのだ。影はまるで労わるように龍に付き添った後、すっと離れて北の空へと消えて行く。

「・・・まさかねぇ。いや、まさか・・・」

 どことなく嫌な予感が背に走る。薄らと遠くに見えたそれは、奇妙な事に、龍と同じサイズであるように感じたのだ。まさかあれと同じ生き物がこの世に二頭存在するなど、全身に疲れが走る今の熊美にとって考えたくない事であった。
 身体に鞭を打ちながら熊美は立ち上がり、ふらっと足を崩しかけた。転落の際に打ち付けてしまったのか、右足首に鈍痛が走る。捻挫をしたらしかった。歩くのがきつく感じるがそれを顔に出すほど軟弱ではいられない。助けを求める兵士等の下に熊美は歩いていく。青々とした北の空には、既に龍の影は無くなっていた。


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 慌ただしき足音がイル=フードの近くを駆け抜けていく。賊の襲来という火急の事態によって、タイガの森全体は焦燥の波に駆られていた。出陣の準備を整える者、兵
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