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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の3:二つの戦い
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男とばかりに男は槍を振り回し、己の傷よりも多くの敵をなぎ倒していく。

「甘いんだよっ!!てめぇらの垢塗れのフニャチンじゃ俺は殺せねぇ!!まだ俺は生きているからなァっ!!お前等みたいな糞共に、俺を殺せる訳がねぇ!!」

 汚らわしい文句も武勇が付けば箔が付くというものであった。戦いという一点では勝利は確実となっていたエルフ側は、局地的においては完全に気圧されてしまっていた。周りでは続々と賊が敗れ去っているのに、その場所だけはぽかりと穴が空いたかのように男の武勇が目立っていた。
 地に斃れたエルフが八つを越えた辺りで、戦場へユミルが戻ってくる。彼は戦場の趨勢とは対照的に展開される賊の存在をすぐに悟ると、手近にいた兵士に、「弓を持ってこい」と命じた。兵士が急ぎ仲間より弓を借りてくると、ユミルはそれを受け取って馬上より凛々しき様で構えた。
 賊の指揮官は倒れ伏す仲間等とは打って変わり、未だ闘志に揺るぎは無かった。体力的にも限界が近付いているのに、また一人、無謀にも吶喊してきたエルフの少年の首を掻っ切ったのだ。但し避ける事は失敗したようで、腹に深々と剣が突き刺さっている。男は死に近付いてく小さな躯に向かって罵詈を吐く。

「チビりながら死んでるんじゃねぇぞ、糞餓鬼!!たかが首斬られただけで突っ伏しやがって!そんなんじゃ、てめぇ、でかい大人になれるわけがーーー」

 瞬間、鋭い高調子が戦場を貫き、一本の矢が男の首を貫通した。男は思わず武器を手放して、驚いたように肉に突き刺さったそれを握る。矢を通じて全身を駆け巡った衝撃に、膝ががくがくと震えてしまっている。

「けほっ、げほっ・・・クソ・・・くそ・・・」

 血泡溢れる口で何かを呟いた後、そのがら空きの腹にエルフらの鋭い槍が幾つも突き入れられた。抗する手段も持たぬ男はそれに呻き、世界に広がる不文律の掟、即ち弱肉強食の掟を心底恨むかのように声を出し、ばたりと地面に倒れてしまった。
 猛烈なる武を誇った男が倒れた事で、盗賊の抗戦は一気に尻すぼみとなっていった。ユミルは弓を兵に返しながら、額と首に流れる大粒の汗を拭う。めらめらと盛る炎が、また新たに樹木に移る。春に備えて蓄えていた命の糧がいともたやすく灰に変わっていく様を、エルフらはなす術も無く見守っていた。
 


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