第八章 望郷の小夜曲
第七話 捜索隊
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る。それは女官が特別優秀というわけではなく、毎日同じことを聞かれていたため出来たことであった。
「そうですか……さがって構いません」
「失礼します」
女官の足音が小さくなるにつれ、扉の前から人の気配が遠ざかっていく。部屋の前から人の気配が完全になくなると、アンリエッタはベッドに突っ伏した姿で深い溜め息を吐き、ごろりと仰向けに転がった。
天井から窓に顔を向けたアンリエッタは、段々と狭まっていく視界の中ポツリと呟く。
「……むねが……いたいよ……しろうさん」
アンリエッタの瞼が落ちた頃、ハヴィランド宮殿の別の客間において、ソファに深く座り込んだ男―――ジョゼフが窓から見える二つの月を眺めていた。視線は窓の向こう。しかし、その目は夜空を映すことなく、先程までこの部屋にいた男との会話を思い出していた。
「『四の秘宝、四の指輪、四の使い魔、四の担い手……、四つの四が集いしとき、我の虚無は目覚めん』……か、聞いておったな余の可愛い女神よ。やはりロマリアは我らの知らぬことを知っているようだ。さすがは何千年も始祖の後を追いかけてきた連中といったところか」
部屋の中にはジョゼフ一人の姿しかない、しかしジョゼフは誰かと会話をしているかのように口を動かしている。ジョゼフが座るソファの前にはテーブルがあり、その上にはワインが入った瓶と、空のグラス、そして一つの人形があった。それは黒髪の細い女性の人形だった。
「……しかし奴らでもあの化物のことは何も知らぬか……」
テーブルの上に置かれた人形を横目に見たジョゼフは、苛立った様子で肘掛を指で叩く。
「聞いておったのだろう。奴らもそうとう焦っているようだ。余に虚無の使い手を探させることよりも、あの男の正体を調べることに躍起になっておる。まぁ、それも仕方のないことだろう……七万の軍を一人で打ち破った男だ……生死は不明と言うことだが、恐らく死んではいないだろう」
左右色が違う瞳を持つ美貌の神官は、ジョゼフに虚無の使い手の捜索を願った後、一人の男について質問した。
知っているか?
聞いたことがあるか?
噂を聞いたことは?
何か知らないか?
虚無の使い手の捜索を願う時よりも、もしかすれば真剣だったかもしれない。穏やかな笑みをたたえていた美貌が、その時だけまるで美しい面のように硬く固まっていた。
額に皺を寄せ唸るように声を上げたジョゼフだったが、直ぐに鼻を鳴らす。
「ふんっ、ただの勘だ。しかし、あの男は本当に何者なのだろうな……無限に剣が突き立った荒野……一体どんな魔法だ……あの神官が言うには魔法とは、物質を構成する小さな粒に影響を与えるこ
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