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ドン=ジョヴァンニ
第一幕その十七
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第一幕その十七

「そんなことは」
「自分の胸にって」
「浮気者」
 彼が責めるのはやはりこのことだった。
「幾ら貴族だからってそれでも」
「そんなことを言われる理由はないわ」
 ツェルリーナは必死にマゼットに告げる。
「私にはそんな」
「僕は浮気は許さないから」
 マゼットはまだ背を向けたままである。
「絶対に」
「私が浮気をしたなんて」
「結婚式の日にだよ」
 ここでえツェルリーナに向かい合う。
「僕を捨てて他の男といっしょにいて」
「あのことなのね」
「この不名誉な記録を僕の前に置くのかい!?どうなんだよ」
「私は逃げることができたのよ」
「逃げることが?」
「だから今すぐにここに来られたのよ」
 こうマゼットに言うのだった。
「助けてもらって」
「助けてもらって」
「大体そのままいったのなら今もいないでしょ」
 このこともマゼットに話す。
「そうでしょ?お屋敷にすぐに来ることなんてできないじゃない」
「そういえばそうか」
 言われて気付くマゼットだった。
「言われてみればそうだな」
「そうよ。だからここに今いるのよ」
 また言うのだった。
「そうでしょ?信じてもらえないのなら」
「僕に信じてもらえないのなら」
「何だってしていいわ」
 腹を括った言葉だった。
「それこそ何でもね」
「何でもって」
「ぶってよ」
 ここまで言う。
「その時は貴方が私をぶって」
「僕がって」
「幼い仔羊みたいにここにいて貴方の鞭を待つわ」
「いや僕がって」
 マゼットはツェルリーナにこう言われて明らかに戸惑いを見せた。気の優しい彼が誰かを、とりわけツェルリーナをぶつことなぞ想像もできなかったからだ。
「そんなことは。とても」
「髪の毛を引き千切られても眼をくり抜かれても」
 欧州での拷問はかなり酷い。
「貴方のの両手に口付けしてあげるわ」
「ツェルリーナ・・・・・・」
「まだ怒っているの?」
 マゼットの戸惑う顔を見て言う。
「もう怒らないで。喜びと楽しみで昼も夜も楽しみましょう」
「仕方ないな」
 ここで遂に許してしまったマゼットだった。
「わかったよ。もういいよ」
「マゼット」
「君が何もしていないのはわかったし」
 これは事実だしツェルリーナも隠さないのでマゼットにもわかったのだ。
「それじゃあね。それで」
「次のお祭はここだな」
「!?」
「あの声は」
 マゼットとツェルリーナだけでなく周りの村人達も声をあげた。
「あのいかさま騎士殿の声だ」
「間違いない」
「来るわよ」
「来たらいいじゃないか」
 マゼットは心配する顔になるツェルリーナに対して告げた。
「だったら」
「だったら?」
「あいつが来る前に隠れるんだ」

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