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Epilogue
Epilogue(全文)
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き上げられた穀物と野菜の入ったスープを受け取ったナツメは近くのビルの玄関口に座り込んでいた。誰も使っていない雑居ビルのようで、少ない街灯を頼りに集まる住人の様子がよく見える。
ナツメに慣れ慣れしく声をかけたのは、彼より少しだけ若く見える男だった。
「ああ」
 男は男だと判別できる程度に女のような顔をしていた。栗色の天然パーマがよく似合う。顔と体格との間に年齢差があるように見受けられた。童顔だった。
 彼はナツメの前で口を噤んでいる。
「何か用か?」
 近づき難くなるような素っ気のなさだったし、ナツメは半ば意図的にそうした。元より彼の人相は他人にとって心地よいものではない。生まれつき睨むような視線を放つ彼は、その素っ気なさも相俟って、他人から近づかれない性質を持っている。ナツメ自身、他人に近づかれる必要を感じていなかった。
 けれど男は笑顔を見せた。この時代には不釣り合いなほど、屈託のない笑顔を。
「隣、いいか?」
 ナツメは小さな驚きを鉄面皮で隠した。
「ああ」
 顔を上げることもないナツメに彼は不振な顔の一つもしない。目にすることなくナツメにもそれはわかった。
 男が隣に座り、ナツメは自分と比べてみて初めて彼の腕がか細いことに気づいた。十分な食事がとれないだけが理由ではない血色の悪さもあった。ナツメはそれについて問わなかった。
 彼は金属のスプーンでスープを混ぜながら話しかける。
「おれ、ユーリ。あんたは?」
「ナツメだ」
 ふーん、とユーリはスプーンの先を口に運ぶ。さほどの興味もないように。ナツメは彼を危険視した。向こうから近づいてくる他人は、大抵問題を抱えていて、故意にしろそうでないにしろナツメに危害を加えるのだった。ユーリからはひどく純粋無垢な印象を受けた。それが本物だとは感じられないほどに。ナツメとそう変わらない年頃で、戦争に駆り出されたはずなのに、彼には訓練を受けた形跡も戦場を歩いた過去もないように思われた。
 ユーリはナツメがそこにいないかのように食事を続け、時折思い出したように言葉を放つ。
「軍人?」
「元、な」
「どっから来たの?」
 かと思えば、彼は急に質問を並べる。
「遠いどこかだ」
「どこかって?」
「俺も憶えていない」
 ナツメは嘘をつかなかった。その純粋な瞳には――それが偽物であったとしても――すべてを見透かされるかのような恐ろしさがあった。
「そんなことを訊きにきたのか」
「まぁ、ね」
 ナツメは意図して少しだけ呆れた顔をした。
「だって久しぶりに見たから、同じくらいの歳の男」
「お前の他にはいないのか?」
「男はおれ一人」
「女は?」
「いるよ、いっぱい。ここは戦場に行かずにすんで生き残った人たちのポリスだから。そこでも働いてたろ、女の子」
 言って、ユーリは
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