Epilogue(全文)
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滅する日はそう遠くない、と。
ナツメが訪ねた農夫は、訳を話すとすぐに木製の古い道具と耕すべき土地を与えてくれた。任された土地は雑草の処理が終わったばかりの荒れ地で、ナツメにはとても肥沃そうには見えなかった。砂の粒は大きいし、水分が少ない。そんなでも野菜は育つのだと農夫は言った。彼――タナベと名乗った――は、そのたくましい腕に野菜を抱えていた。実りの悪い土色の根菜だった。ナツメがそれに目を向けていると、タナベは笑顔で「こんなでも食べられる。収穫しないと、今日食べるものがなくなってしまう」と豪快に笑った。三十代に見える彼には歳相応の苦労と、どこか遠くを見ている目を垣間見ることができた。ナツメは黙って仕事に就いた。
日が傾くまでナツメはひたすらに荒れ地を耕し続けた。都市の外れの農地。西ろ都市と東の山々に挟まれた郊外だった。森との境には都市にあったのと同じく廃品のバリケードが組まれている。ポリスは完全に外部との交流を遮断されていた。都市の隅っこと一部郊外を囲う脆い壁によって。森に住まう動物たちの気配を感じることは叶わない。あるいは、かつて森にいた動物たちはとっくに死に絶えているかもしれない。
空の赤色が徐々に深みを増してきた頃、タナベの妻が彼女らの娘とともにやってきた。夕飯の準備ができたことを教えるために。このポリスでは、住人全員分の食事を一つの場所で一斉に作っているのだった。
タナベは戦争が始まる前なら初等学校に通い始めているであろう娘をナツメの前に連れてきた。長い髪をおさげに結った少女は、人見知りをしてタナベの背後に逃げ込んだ。
「ほら、コウメ。挨拶をしなさい」
父親にそう言われ、コウメはタナベのズボンを握りしめたまま片目だけでナツメを見上げた。
「……こん、にち、は」
それだけ言うと、彼女はすぐに目を伏せた。
ナツメは棒立ちのまま、
「ああ」
とだけ。タナベが苦笑する。
淡泊ながらも反応されたことに自信を覚えたのか、コウメはもう一度顔を出した。
「コウメね、コウメっていうの」
それから、またすぐに隠れる。
「ナツメだ」
名乗られたコウメは少しだけうれしそうな表情を見せ、今度こそ父親の背後から出てきた。彼女はナツメを黙って観察し、ナツメはそれを見下ろした。
タナベがコウメの頭を力強く撫で、彼女が少しだけ痛そうな顔をし、
「さ、夕飯だ。きみも行くだろう?」
「ああ」
ナツメは農具を生まれたばかりの畑に刺した。コウメが母親の元に駆け寄り、ナツメと目が合うと母親はやんわりと笑顔を見せる。ナツメの肩には今も銃がぶら下がっているが、誰も何も言わなかった。
ナツメは笑い合う家族の後ろを、少しだけ離れて追った。
「あんた見ない顔だけど、最近ここに来た?」
食事の配給場所になっている古い工場で炊
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