暁 〜小説投稿サイト〜
Epilogue
Epilogue(全文)
[7/55]

[1] [9] 最後 最初
したのは、独特の環境のせいか、あるいは偶然の突然変異の結果だと彼は考える。同時に、人為的な環境整備の影があるようにも見受けられた。
 しばらく茫漠と観察し、それからナツメは錆びついて開いたまま動かなくなったドアの前から去った。寝床にはなりそうもなかった。
 その奥に、古い畳の六畳間があった。「宿直室」と札にあった。水洗トイレやシャワー室も隣接していたが、ライフラインが完全に停止している中で機能するはずもない。けれど窓は南向き、畳も朽ち果ててはいない。他の部屋と比べれば良好な環境といえた。ナツメはしばらくの寝床をそこに決めた。
 銃とリュックサックを下ろして、彼自身も壁にもたれて座った。畳はしなっても壁が音を鳴らすことはなかった。リュックサックを開けると、彼の記憶通りの荷物が収納されている。一番手前にあるのはランプだったが、窓からの日差しだけで部屋は十分に明るかった。他には最低限の工具やなけなしの食料が入っていた。リュックサックは当時軍隊から支給されたものだが、軍が崩壊してから数年の間に中身は様変わりしている。今では軍人であった一年間、そのリュックの中に何が入っていたのかナツメ自身にも思い出すことはできなかった。
 リュックサックの中身を一通り確認した彼は、それを元に戻すことをせずに銃を手に取った。よく磨かれた銃だった。彼の粗暴な身だしなみには似合わないが、それが彼の生命線であるという意味で、手入れされているのは当然のことだった。銃弾が装填されていることを確認して、彼はそれを握ったまま腹に置いた。
 まぶたを閉じて、ナツメはしばらく日影で眠った。


 目を覚ましたナツメは、食事の必要も感じず、銃を持ったまま学校を出た。出くわした住人に道を聞いて、ポリスの中の農場へと向かう。ポリスでの生活には慣れていた。今まで幾つものポリスを渡り歩いてきた。その数と同じだけ、ポリスを追い出されるか、出ていなければならない事態に陥っている。身内の争いごとでポリスが崩壊したり、関わるべきでない類の人間に目をつけられたりしたが、ナツメは慣れていた。仕方がないことだった。なんとか生き残った人々がその日暮らしの自給自足をするポリスという共同体において、新参者を受け入れるというのは自らの首を絞める行為。門前払いを喰らうことも一度や二度はあった。
 今まで渡り歩いてきたポリスと比べると、とナツメは思う。このポリスに漂う空気は穏やかな印象だった。人々の様子は変わらない。継ぎ接ぎだらけの衣服を纏い、痩せ細り、虫食いだらけの小さな野菜を井戸水で洗っている。けれど、争いごとは見受けられなかったし、他人のナツメを無視することもなかった。砕けたアスファルトの上で駆け回る子供の姿も見た。ひっそりと暮らすその様子に、彼は人類が確実に退行しているのを感じた。このまま衰退して地球から人類が絶
[1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ